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数年越しのエアコン不調原因究明(スバル サンバー TV2 クーリングファンモーター作動不良)

エアコンがあまり効かないとご相談を受けたのは、ちょうど3年前です。

スバルの名車サンバーの自社生産が終了になって久しいのですが、現在も同車種はトラック、バン、ワゴンとも大変根強い人気なんだそうです。

ご相談のあった直前に中古で購入されたという状態の良さそうなサンバーは、走行距離5万キロ台ととても少なく、第一印象ではエアコン不調とは無縁のように思いました。

平成22年式 EBD-TV2 EN07 5MT 走行距離 74,000km

車両下から確認すると大小2つのクーリングファンが並んで配置されていて、エアコン稼働時に大きいほうのファンが回っていないことに気が付きました。

サービスマニュアルによるとエアコン稼働時は両方のファンが回らなくてはいけません。片方の小さいファンのみの駆動ではコンデンサーの冷却が不十分で、エアコンがいまいち効かないという症状に合致します。

しかし、走行距離5万キロ程度でファンモーターが寿命を迎えるとは考えにくいのです。

単体点検を実施します。

サンバーを整備した経験のある方ならお分かりと思いますが、輸入車並みか部分的にはそれ以上の整備性の悪さ。単体点検のためファンモーターのコネクタにアプローチするだけの作業なのですが、複雑に入り組んだウォーターホースの間隙に肘まで腕表面を傷つけながら入れなければいけません。

まあそれでもなんとかコネクタ離脱し、ファンモーター側、コネクタ側共テストリードをつなぎ、ファンモーターに直接電源を投入するも動かず、車両側のコネクターの電圧を計測するとファンモーター駆動電圧は立っている状態。

この結果からすると、ファンモーターの不良という判断になるのですが、その後、ファンモーターに電源をつないだリード線に偶然触った瞬間、パチッと音を立ててファンが回りだしました。

それからファンが動かないという状態にならなかったので、再度車両側のコネクタを接続し、順調な正常制御通りのファン動作をしばらく眺め、腑に落ちないまま何の処置もせず一旦お返しすることになりました。

ところが1ヶ月後、同じ症状が出て再入庫。

前回の点検結果から、大きい方のファンモーター本体の不良と判断し、了承を得て交換。

赤丸の場所に目的のファンモーターがあります。4WDの場合、ファンモーター交換のためにはフロントデファレンシャルを下ろさないといけません。

ファンシュラウドの右上のボルトへのアプローチは特に困難ですが、右前タイヤハウスの狭い隙間から小さく細い工具が届きます。

他メーカーの同様車種のラジエーター周りの配置は、室内の大きな開口の下だったり、交換が容易なフロントバンパーの奥だったりなので苦労はありませんが、サンバーは室内に小さなサービスホールしかなく、バッテリーとラジエターキャップ交換くらいしかできない設計。ラダーフレームにキャビンが載る車体構造というところが、他メーカのモノコックと大きく違います。全く想像が届きませんが、様々な理由でこの難儀なレイアウトになったのだと思います。

今回は大ファンの交換でしたので、デフの離脱だけでよかったのですが、ラジエーター交換となるとフロントのサスペンション全体を離脱する必要があります。大型トラックのようにキャビンが前傾する構造だったら整備士に優しいのにと、いつも思います。

新品のファンモーターを搭載し、順調に稼働するエアコン。そして、不良と判断したファンモーターを分解しますが、ブラシが減っている様子も軸が焼けている様子もありません。

何だか釈然としませんが、お客様にお返ししてその後はずっと順調稼働していたのですが、何と交換して3年、24,000キロ走行後に、エアコン不調が再発します。

やはり原因が取り去られていなかったのです。

今度は大小二つともファンモーターが駆動していません。まずは3年前に処置した大きい方のファンモーターとその接続など今一度詳細に見てみることにしました。

3年前は、見えない奥の場所を手探りでテストリードを繋いでいました。今回はコネクタの状態を目視しようと助手席下の小さなサービスハッチまで車両側コネクターを取りまわしてきました。

すると、向かって左側の金属端子が奥に入っていることがわかります。

そして、3年前に交換し、不安を拭い切れずに保管していたファンモーター側のコネクタをよく見ると、先端に少し焼けたような痕跡があります。

国産車でコネクタの電流容量不足による過熱はほとんど考えられません。おそらく車両側のコネクタ端子が製造時に挿入不足で、ファンモーター側の端子との接続が浅く甘く、接触不良になったものと察します。

新品のファンモーター側の端子の表面が新しくなったことで、3年2.4万キロ順調作動していたのでしょう。

今回の点検で車両側コネクタ内部の溶損が確認できましたので、コネクタハウジングを交換する必要があるのですが、ほとんどの場合ワイヤーハーネス全体の供給となり、修理としては現実的ではありません。

いろいろサーチすると、運よくトヨタ純正部品で同一のものが見つかりました。

溶損の無かったほうのコネクタ端子は再使用。勢いよく回るファンの近くの配線ですので、長さを標準から変えることを回避したかったからです。

狭い場所での配線修復の様子を写真に収めることができませんでしたので、模擬的に車外で修復の手順を解説します。

このようなに切れた配線をつなぐ場合、まず配線被覆をストリッパーで適度に剥きます。

裸配線部を同一方向に撚ります。

しめ縄作りの要領で、裸配線を撚った反対巻きに互いに撚り合わせます。

比較的ワット数の高い半田ごてで一気に半田を流し込み

あらかじめ通しておいたヒートシュリンク(熱収縮)チューブで絶縁します。

小さいほうのファンモーターの作動についてはモーター本体に衝撃を与えると順調に動き、お預かり時に止まることはありませんでした。小ファンモーターのコネクターはさらに手の入らないファンモーターから離れた場所に配置されていますから、コネクタの接触不良より本体不調の可能性が高いようです。大ファン作動を補って作動時間が長くなった単純な消耗に思います。

大ファンが正常動作しますと、エアコン、エンジン水温制御とも問題ありません。今後の大小ファンの作動状況をお客様と共に観察し、小ファンモーター交換の際は同時作業としてラジエーター交換を併せて実施する計画で進めていくことにいたします。

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ITS