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繰り返す冷却系不調の意外な原因は(スバル サンバー TV2 オーバーヒート)

数年越しのエンジン冷却系不調(クーリングファン作動不良)の修理を終えたスバルサンバーは、下の記事掲載の後、小さい方のクーリングファンモーター交換も済ませ、エアコン、エンジン冷却に問題がなくなり5ヶ月が経過しました。

参考記事:数年越しのエアコン不調原因究明(スバル サンバー TV2 クーリングファンモーター作動不良)

平成22年式 EBD-TV2 EN07 5MT 走行距離 79,000km

ところが師走に入って寒い日が続くにもかかわらず、オーナー様より「今度はクーリングファンが回りっぱなしで止まらなくなった。」と連絡が入りました。

同時交換していなかったファンリレーの接点溶着でもあったのかと思いましたが、エンジン停止後しばらくするとファン作動は停止するらしく、その後、走行すると小さい方が回ったのち、大きい方も回りだしてイグニッションキーOFFまで回りっぱなしだといいます。

年末の繁忙期で、すぐに詳細を拝見することは難しいけれどオーバーヒートしている可能性が高く、一旦お預かりすることにいたしました。

お客様のご自宅と店までは数キロほどしかないのですが、走行して程なくクーリングファンが回ったままになり止まらず、ご来店直前には高水温警告灯が一瞬点灯したとのこと。

明らかにオーバーヒートです。いったい何が起こっているのでしょうか。

ご来店されて高水温警告灯の表示は消えているものの、大小二つのクーリングファンは轟音を立てて回ったまま。サブタンクからクーラントが溢れだし始めましたので、一旦エンジン停止しました。

ハッチゲートを開けたところのサービスハッチを開放しますが、そう深刻な過熱はなさそう。

ところが目視点検しているとすべてのウォーターホースが水温低下とともに負圧で潰れていく景色を目の当たりにし、冷却経路の圧力調整が適切に行われていないことに気が付きました。

圧力調整弁、ラジエータキャップの張り付きを強引に取り外すと、ご覧の通りプレッシャーバルブのラバーシートが膨張して中心部は脱離しています。

新品のラジエーターキャップのプレッシャーバルブのラバーはこのようなサイズです。

金属のケースとプレッシャーバルブの周囲の隙間(赤い線で示した部分)で圧力調整しています。膨張したラバーが経路(ラジエータ~バキュームバルブ~サブタンク)を閉ざしていました。

ラバーシートの膨張で、サブタンクからのクーラント補給や圧力調整が不能になり、主経路のクーラントは排出方向のみ。これを繰り返してクーラント不足に陥ったようです。

リアエンジンのこの年代のサンバーはクーラントが不足してエンジン側にエア溜まりができると、エンジンルーム内に備わるエア抜き栓から強制排出しないと自然にはエアが抜けないため、このようなトラブル時には一気にオーバーヒートに至る危険なレイアウトなのです。

ではなぜこのようなラバーの膨張が起こったのでしょう。

このラジエーターキャップの写真は清掃後のものですが、取り外した直後は、なんとエンジンオイルが付着していました。クーラント経路のゴムは耐油性に乏しく、エンジンオイルで著しい膨潤が起こったのです。

クーラント経路にエンジンオイル混入となると、シリンダヘッド歪みによるヘッドガスケット抜けなど、修復には比較的大がかりな作業を要する不調を連想します。

ところが、こちらをお預かりしたときにエンジンオイル漏れも始まっているようだと、タイミングベルトカバー下部から滴下するエンジンオイルをお知らせいただきました。

このオイル漏れはオーバーヒートとは関連がなさそうに思いますが、同時多発のトラブルは根幹が同じということが珍しくありません。

オイル漏れは場所的にオイルポンプからかなと、添付ステッカーで知ったやけに早いご購入前のタイミングベルト交換(4万キロ時)の状態確認と、同時に交換されているだろうウォーターポンプの点検を兼ねて、先に実施しようと思い立ちました。

タイミングベルト交換実施済みを示すステッカーのデザインから社外品使用を疑い分解。

予想通り社外パーツが使用されていました。このタイミングベルトやウォーターポンプを組んだ整備士は、各部の作業痕から非常に几帳面で丁寧な作業をしているだけに、事情は知りませんがとても勿体ないと感じる景色でした。

この社外メーカーのウォーターポンプは、調べると樹脂製のインペラのようなので、オーバーヒートの原因の一つであっては大変ですからスバル純正部品への置き換えを前提に取り外しました。

取り外して、サンバーの4気筒エンジンのウォーターポンプパッキンはちょっと変わっていることを思い出します。

この丸の部分にはエンジンオイルが高圧で掛かっています。

ウォーターポンプのパッキンやフランジ面に伝うエンジンオイルを観察すると、エンジンオイルのクーラント経路侵入や外部への滴下はどうやらココが源のようです。深く考えずに作業を進めていたらオイルポンプやシリンダヘッドに手を出していたかもしれません。

純正品(右)との比較。純正品は金属のインペラです。

パッキン比較。純正品はズレ防止の突起形状が特徴的です。

ウォーターポンプに刻まれたパッキン溝深さを計測すると、純正はどの場所で計測しても1.8mmに対し、社外品は1.9-2.0mmと純正より概ね深く、仮に同じ断面積のパッキンを使用したならば、パッキンの潰れ代(しろ)が社外品は不適切だったのでは?と思います。

社外部品メーカーの名誉のためにメーカー名は伏せますが、重要な部分の寸法模倣もできないメーカーです。

自動車メーカーに純正採用されない部品メーカーの品物を重要な箇所に使うことは論外で、例え純正採用されてる部品メーカーであっても、自動車メーカーロゴが印刷されたパッケージに入っていないものは、出荷基準の甘さがあるのではと疑い、僕は使いたくありません。

今回のようにクーラント経路にエンジンオイルが混入すると、一般的には全損です。特にリアエンジン車のサンバーの場合、車両のクーラント経路は長く複雑で、取り換えるのに大作業を伴い、相応な費用が必要だからです。

幸い今回の事例は比較的混入量が少ないようでしたから、クーラント経路のフラッシングを今後も定期的に入念に行い、ラジエーターキャップなどエンジンオイルで劣化する各部の点検、交換で延命する方針です。

 

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