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カムシャフト回転位相ズレの憂鬱(DBA-JH1 ホンダ N-WGN)

24ヶ月点検整備でお預かりしたホンダN‐WGNは、約2年前に中古車としてご購入された頃からエンジン警告灯(及び横滑り防止機構警告灯が仕組み上、同時点灯します)が点灯し、今回の継続検査には通過しない状態です。

融雪剤散布地域で使用されていた痕跡があり、エンジンオイルの交換管理もあまり良くないということを伺いました。中古車両としてはお客様のご使用用途的に十分なコストパフォーマンスとのことで、車検通過と費用に見合う状態の改善をご所望でした。

お買い求め直後にホンダ正規ディーラで警告灯点灯の診断をお受けになられたそうで、エンジン内部の回転軸の位相ズレ、すなわちバルブタイミングの異常を検出し、複数個所の原因が考えられると伝えられたとのこと。

その診断の際に一旦消去されていた警告灯は、ディーラの敷地を出て次の信号停止時にはもう再点灯しているような状況だったそうです。

回転位相ズレ異常の修理は、メカニカルな部位の不具合だと比較的大掛かりな分解作業を伴います。

取り急ぎバルブカバーを開けてみましたが、伺っていたほどエンジンオイル交換管理が悪い様子はありません。

クランクシャフトを回してバルブタイミングは正常です。タイミングチェーンの状態も悪くありません。もちろんオイルコントロールバルブの正常動作も確認しました。

そして、検出した診断トラブルコード(以下DTC)を簡易診断機で確認。

伺っていた通り、ホンダコードで57-3、共通コードでP0341、カムシャフトポジションセンサ(以下、ホンダの呼称TDCセンサとします)とクランクシャフトポジションセンサで検出された回転位相のズレです。

開発者が想定した推定箇所などあまり当てにならないのですが、参考までに目通しします。

実際の故障事例はWebサーチが有用で、なんとインテークカムシャフト後端に圧入されているセンサプレート(TDCセンサの相手)が回転してズレてしまう(!)というものでした。

回り止めのないセンサプレートとカムシャフトの勘合。それぞれの材質の違いで、熱膨張比が異なり、オイル交換管理が良くない場合など、過熱で緩んでしまうのが原因ではないかと、この事例に遭遇したメカニックは推察します。

そして、センサプレートがズレた様子を新品のカムシャフトと比較して写真に収め、親切に公開してくださっているのです。僕は2事例を参考にしました。興味深いのはそれぞれのズレ方向が同程度で逆方向だったこと。新品カムシャフトと並べて比較すると目視判定が容易なズレ量でした。

ところが、僕が直面しているN-WGNのカムシャフトのセンサプレートのズレを差し金を当てて確認しますが、Webに掲載されいている新品カムシャフトのそれと有意な差が目視では認められません。

となると、エンジン始動時に「ジャラッ」と耳障りな異音がするVTC(Variable timing control)アクチュエータの作動で、故障判定に掛かるような問題があるのでしょうか。一応ホンダのサービスマニュアルにはDTC検出の推定原因として載ってはいます。

「VTCアクチュエータの固着」、「VTCアクチュエータのしぶり」との記述。

尚、Webの不具合事例、センサープレートのズレに関しては基準も点検方法もありません。

可能性を探りながらの作業ですから順に一つずつ進めていきましょう。

新品のVTCアクチュエータを装着します。

新品VTC組付け最初の何回かのエンジン始動では異音がしていましたが、馴染みが出たのかしばらくすると滑らかなエンジン始動音になり期待が高まります。

ところが、DTCがストアされないのは温間時のみで、室温程度までエンジンを冷やすと同様のDTC、57-3(P0341)をストアします。

ホンダの同DTCは、連続した2ドライブサイクル(エンジン始動を伴うイグニッションON~OFFまでを1ドライブサイクルと定義、以下D/C)で故障判定されると警告灯が点灯します。そして3連続D/Cで正常判定されると警告灯が消灯する仕組みです。従いまして、DTCをストアしていても警告灯が点灯せず、運転者が故障に気が付かない場合もあるということ。

VTCアクチュエータを交換しましたが、改善はみられるものの、完全に治っていないのです。

では、次の故障推定部位のTDCセンサはどうでしょう。ホンダのサービスマニュアルには可能性として「特性ずれ」と書かれていて、交換点検しか現実的な点検方法がありません。

ところが、期待に反してTDCセンサを新品に交換すると、お預かり時の状態、温冷問わず常にDTCがストアされる状態に戻ってしまいました。

この2つの部品の交換で変化したことを要約すると、DTCの検出原因は他にあって取り去られておらず、それはDTC判定良否の境目付近の異常と考えられ、非常にセンシティブであるということ。

遠回りをしましたが、やはりWebで見つけた2事例のカムシャフト後端のセンサプレートに疑いの的が絞られました。

改めてサービスマニュアルを閲覧しますと、位相ズレ異常の判定は10°以上を4.0秒以上と書かれていて、この10°はクランクシャフトのそれで、今注目しているカムシャフトでは半分の5°。直径50mmのセンサープレート外周では約2mmです。

カムの丸い突端基準で掲載されているWebの比較画像を基に目視判定するのはそもそも無理がありました。

VTCアクチュエータ交換で、お預かり時のノッキングもドライバビリティも改善していますから、お車全体の状態を考えて警告灯を消灯することを目的にさらに費用をかけることをためらいましたが、オーナー様は私の好奇心に同調してくださり、作業は続行。

新品のカムシャフトを取り寄せます。

新旧のカムシャフトのセンサプレート側です。このように安定する位置(形状)があります。5°付近と推定したズレを目視判定しやすいように反対側に外径の大きなVTCアクチュエータを装着して比較しました。

こうして比較すると目視で判定が容易で計測すると予想通り5°のズレ(ちなみにVTCアクチュエータは最遅角位置です)。

もうDTCがストアされることは無くなりました。ノッキングは限られた条件で発生したままですが、燃焼室のカーボンが主原因であれば、ハイオク燃料注入でかなり改善されると思います。お返し後の様子をご覧ください。

参考にセンサプレートを取り外しました。回り止めのない勘合は、やはり頼りなく感じますね。

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