先日、ショックアブソーバ交換でお預かりしたスバルインプレッサ GDB の続きです。
乗り心地はショックアブソーバで極める(スバル インプレッサ WRX STi GDB-E, KYB Real Sport GRAVEL)
未舗装路競技用ショックアブソーバを装着。一般道の荒れた路面で、STiグレードの強力なコイルスプリングの動きを十分に減衰し、大幅な乗り心地の改善ができました。
平成16年式 GH-GDB(アプライドE) EJ20ターボ 6MT 走行距離 103,000km
ところが、長距離運転中に後席にお乗りの同乗者の方が、乗り心地の違和感を強くお感じになられ、改善できる要素がないかご相談がありました。
以前、GDB(アプライドB)のショックアブソーバ交換後、確かに概ね乗り心地がよくなったものの、リアの揺動が完全には収まりきっていない感触がありました。
あなたのクルマ、間違った足回りになっていませんか?(スバル インプレッサ WRX STi GDB ショックアブソーバ交換、乗り心地改善)
それは、STiグレードのリアスプリングが、不等ピッチ(線間)のマルチスプリングレート(2段バネ定数)であることに起因しているのでは?と感じていました。
適合確認を慎重に進めて用意したのは、同年式のインプレッサWRXワゴン(SSシフト) GGA(アプライドE)用のリアスプリングです。比較的線間が等間隔で、諸元の後軸重量差が10kgと、全モデル中最も小さかったのが選択の理由です。
どちらも荒巻の円錐形コイルスプリングですが、GDB用は下方2.5巻が線間が狭いことがわかると思います。
実測値は以下の通り
自由長 | 小外径 | 大外径 | 線径 | 巻数 | |
---|---|---|---|---|---|
GDB-E | 306 mm | 126 mm | 156 mm | 13.2 mm | 6-1/4 |
GGA-E(SS-Shift) | 306 mm | 126 mm | 156 mm | 12.7 mm | 5 |
GDBのスプリング線間の狭い部分にみられる錆びた痕跡を見ると、走行時に線間密着する場面も多々あったのでしょう。完全に密着して有効巻数が3-3/4になり、スプリングレートが極端に変化するストローク位置があります。
リアサスペンションがそのポイントを通過するたび、乗り心地の不快感が出ていた可能性があります。
少し話は逸れますが、コイルスプリングと言えば、『スプリングレート(バネ定数)』というほど、一般に意識される指標があります。
スプリングレートの単位はN/mmで、1mm圧縮するのに必要な力を表し、『レートが高いと硬いバネ』という認識で差し支えないと思います。
ところが、スプリング変更をして色々試した経験がおありのあなたならご存知と思いますが、スプリングレートが高いのに意外とソフトな乗り心地だとか、逆にレートが低いのにゴツゴツと乗り心地が良くないと感じることがあります。
少し大雑把ですが、同じレートのスプリングでも巻数が少なく、自由長の短いものより、巻数が多く自由長の長いものの方が、効率よく外部からのエネルギーを蓄えます(高校の物理でバネの位置エネルギーと学びました)。スプリング線の1断面の捻じれに注目すると、後者の方が負担が少なく分散されるイメージです。もちろんスプリング組付け時のプリロードや、スプリングが圧縮されるスピードによっても変わると思います。
蓄えきれなかったエネルギーは、ボディーやタイヤへ伝わり、負担となって乗り心地が悪いという結果が現れるのでしょう。
それを踏まえて、GDBのスプリングを見ると、縮みストロークの過程で線間密着し、有効巻数の減少でエネルギー貯蓄率は低下する上、レートの急激な変化(増加)で、不快感になったものと思います。
効率よくスプリングが縮みさえすれば(エネルギーを蓄えれば)、元の形に戻るときには蓄えたエネルギーはショックアブソーバの減衰で熱に変換され、余分な揺動なくサスペンションが落ち着きます。スプリングがうまく効かないからと、減衰力を上げても抵抗になるばかりで乗り心地は悪化します。ショックアブソーバの減衰力でエネルギー貯蓄の代役はできないのです。
サスペンションは、それぞれの機能をうまく分担させることが大切です。
メーカーが、STiグレードにこのセッティングを施した理由はわかりません。けれども、WRXワゴンのリアスプリングはとてもマイルドで好感触です。尖った感じの印象は薄れても、強大なエンジンパワーで砕けるような弱々しいものではありませんでした。
スプリング変更に伴う車高変化は+5mmほど。アッパーマウントとの馴染みが出て+3mmほどになる予測です。スタビライザ変更していませんので前後軸のロールバランス等についてはオーナー様と今後相談いたします。