錆びて工具が普通に掛からないナットをバーナーで炙って離脱する方法を先日紹介しました。そのマフラーに大穴が開いていたのをご存じでしたか?
車齢20年を超える経年車は、お預かり前に状態を予見するのに限界があります。前回の点検時には大丈夫でも、内部腐食が進行して、こんな風に突如表面化していることがあります。
当然このままでは審査不適合(車検に通らない)ですから、午前に預かって午後に検査場に向かうという計画が怪しくなります。
3月の繁忙期は、お預かりする車検台数が月平均より遥かに多く、検査場は相当な混雑(概ね半日は消費します)、スタッドレスタイヤを脱ぐ季節でもあって、予定には全く余裕がありません。普段以上に一分一秒が大切なのです。
部品手配して待つなどのんびりしてられませんので、ここは応急的に処置します。要するに排気漏れさえ無くせば審査はとりあえず通過しますから。
ありあわせの材料(エンジンオイルの缶)を巻き付け、グルっと一周溶接します。
薄肉板の溶接はとにかく密着が大切。年季の入った半自動溶接機(MAG)は手加減や調整を誤ると逆に穴が広がり収拾がつかなくなります。
どんなクルマにもメーカーの整備要領書(サービスマニュアル)があって、確かに大切な数値や手順が載っていますが、それはほとんどの場合、参考程度にしかなりません。
元々自然界に存在する物質を人間が都合よく利用して加工して組み立てたモノですから、出来上がってから経年すればするほど物理法則通りに変化していき、人工物なのに自然と向き合う感覚に近くなります。要領書に書かれた内容は、特にトラブルシュートが典型的ですが、設計者の狭い想像の範囲に限定されていて、実際とは違ってどこか不自然に感じ、単なる綺麗ごとに見えるのです。
前回紹介した腐食ナットの離脱法や、溶接による応急処置などは決まった手順などそもそもありません。習熟には、単調な動作を繰り返す根気強さ、上手くできない原因に多面的、多角的に捉える柔軟さなどが求められます。
一朝一夕には身につかない技術を偶然顧客の前で披露すると、次の世代に継承しないの?と問われることがありますが、伝統工芸でもあるまいし、僕自身誰かから手取り足取り教わったわけではありません。同業種を担う次世代の若者がそれぞれのアプローチで楽しく取り組めばいいことではないのかなと思うのです。
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