相対運動する2面間の潤滑状態を表すために、『ストライベック曲線』がよく用いられます。
Fig.1の赤い実線曲線がストライベック曲線です。
横軸は、ゾンマーフェルト数といって、潤滑剤の粘度(η)、2面の相対速度(v)、荷重(w)で表わされ、小さいほど過酷な潤滑状態になります。
縦軸は、摩擦係数(μ)です。
2面間の潤滑状態は3つの領域に区分されます。
一番右の青の領域は「流体潤滑」です。2面間に十分な厚みの潤滑剤が介在し、面同士が触れないので摩耗がありません。理想的な潤滑状態です。
それとは反対に、一番左の赤の領域は「境界潤滑」です。2面間に潤滑剤は介在しているものの、厚みが薄く、微視的に面の凹凸の凸部同士が接触します。そして摩耗が進み、最終的には焼き付きます。
その2つの領域の中間、黄色の領域は「混合潤滑」といいます。流体潤滑と境界潤滑の両方が混在しています。例えば、レシプロエンジンのピストンリングとシリンダー壁間の潤滑状態はとても過酷で、この混合潤滑状態にあると言われています。
さて、エンジンオイルで燃費向上を達成するためには、摩擦係数が小さいほうが有利ですから、ストライベック曲線の極小点を狙うことになるでしょう。それがエンジンオイルの低粘度化です。
しかしストライベック曲線を見ればわかるように、ゾンマーフェルト数が少しでも低下すると極端に摩擦係数が上がる危険な状態です。
そこで、有機モリブデンなどFM(フリクションモディファイア、摩擦調整剤)の登場です。
FMを効果的に使用して、摩擦面に緩衝膜を形成すると摩耗が抑制されるというわけです。有機モリブデン以外にもZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)という旧くからある酸化防止剤兼用の摩擦調整剤があります。単体で緩衝効果が期待できますが、摩擦係数低減のためには有機モリブデン併用が効果的です。
話題の丸山モリブデンの二硫化モリブデン粒子も立派なFMです。分散性に優れた超微粒懸濁液は、混合潤滑状態にある2面間に入り込み、二硫化モリブデン本来の摩擦力低減効果を発揮するでしょう。
しかし、エンジンオイルに混合されたFMは使用過程で消費します。
危険な領域に近い低粘度エンジンオイルで僅かな燃費向上を得るより、潤滑状態に余裕のある粘度のエンジンオイルで末永くお車をお使いいただくことをおススメする理由です。
今回は、前回の内容を別の視点から解説いたしました。
↓グループIVベースオイルを使用したモチュールのハイエンド商品。超安心・超安定。
大同だいだいインパクト大 says
二重擬三元系状態図でダイヤモンドの熱力学理論を展開しているCCSCモデルも面白いと思う。
ITS says
大同だいだいインパクト大 様
コメントありがとうございます。
興味深い内容の情報ご提供感謝申し上げます。
勉強させていただきます。
グリーングローバル says
それってプロテリアル(旧日立金属)でSLD-MAGICという高機能特殊鋼を発明され、島根大学元客員教授でもある久保田邦親博士の理論で、産業界では結構有名な方ですね。最近では、KPI競合モデルという広い意味でいうと部門や指標の相互作用(ササラとタコツボ)を計算する話をFacebookで見かけました。ストライベック曲線(材料科学領域、潤滑機素設計、潤滑油分野)から国富論や人工知能(AI、DX)の基礎まで与える関数接合論というものがその原典のようです。詳しくは材料物理数学再武装という大学の講義資料に載っているので興味があれば検索してみてもいいかと思います。
ITS says
グリーングローバル様
コメントありがとうございます。
興味深い情報のご提供ありがとうございます。
是非とも勉強させていただきます。
分散電力グリッド関係 says
Facebook覗いてみると面白いかも。マルテンサイトにかかわる名刀やたたら製鉄の話してました。
ITS says
分散電力グリッド関係 様
コメントありがとうございます。
興味深い情報のご提供ありがとうございます。
是非とも勉強させていただきます。
マトリックス組織学関係 says
まさに文理両道ですね。
ITS says
マトリックス組織学関係 様
コメントありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
マルテンサイト・サムライ says
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
ITS says
マルテンサイト・サムライさま
返信がすっかり遅くなり申し訳ありません。
私にとっては大変難しい内容で、しっかり読ませていただきます。ありがとうございます。
油屋 says
ジャーナル軸受に対しても考察がなされているんですね。
ITS says
油屋様
ジャーナルなどすべり軸受けに対しては、EHL理論を取り入れたオイルの挙動を考える必要があると聞きますが詳しくは勉強中です。
AI革命の旗手 says
やはり世界を引っ張るハイブリッド日本車の技術力の前に、EVシフトは不調をきたしていますね。特にエンジンのトライボロジー技術はほかの力学系マシンへの応用展開が期待されるところですね。いくらデジタルテクノロジーを駆使しても、つばぜり合いは力学系マシン分野がCO2排出削減技術にかかってくるのだとおもわれます。
ITS says
AI革命の旗手様
コメントありがとうございます。
例えば、自動車に小さな核融合炉が搭載できるような技術革新がない限り、EVシフトは急には進まないと思いますし、内燃機関の歴史はそう簡単に手放せるものではないと考えています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
ベアリング関係 says
私なんかは熱処理の焼入れにおけるマルテンサイト変態の際
重要となるTTT曲線の均一核生成モデルでの方程式の解析をMathCADで行い、熱力学と速度論の関数接合論による結果と理論式と比べn=2~3あたりが精度的にもよいとしたところなんかがとても参考になりましたね。
ITS says
ベアリング関係様
コメントありがとうございます。しかしながら、私の専門外の内容なので、気の利いたお返事ができず申し訳ありません。ただ、このような専門的な知識が実際のビジネスや社会にどのように応用されるのか、少し興味を感じました。