省燃費性能を優先した0W-○○というエンジンオイルが主流になりつつある今、取扱説明書にこんな表記のあるお車をお預かりしました。
ターボ仕様の過給機付きエンジンで0W16!、自然吸気エンジンで0W8! 性能を適正に保つため指定銘柄の使用を薦めるとのこと。
脚注を見ると、指定銘柄が用意できない場合、0W20は使用可能とされていました。
少し前までは5W30の使用は認められていて、省燃費のためには低粘度オイルを使ってくださいということでしたが、この車種に限っては(今後の主流になると思いますが)メーカー指定から5W30以上の粘度のオイルは外されています。
エンジンオイルの粘度が下がると油膜が薄くなり、単純に金属摩耗が増えます。
超低粘度オイルには摩耗が少なくなるような工夫はされているでしょうが、省燃費と耐摩耗は相反する性質。基本的に両立は大変困難です。
以前にストライベック曲線を紹介しました(Fig.1)。これは、エンジン内部にあるような相対運動する2面間の潤滑状態を説明するのに用います。
ここで今一度説明します。
横軸は、ゾンマーフェルト数といって、潤滑剤の粘度(η)、2面の相対速度(v)、荷重(w)で表わされ、小さいほど過酷な潤滑状態になります。
縦軸は、摩擦係数(μ)です。
図にあるように、相対運動する2面間の潤滑状態は3つの領域に区分されます。
一番右の青の領域は「流体潤滑」です。2面間に十分な厚みの潤滑剤が介在し、面同士が触れないので摩耗がありません。理想的な潤滑状態です。
それとは反対に、一番左の赤の領域は「境界潤滑」です。2面間に潤滑剤は介在しているものの、厚みが薄く、微視的に面の凹凸の凸部同士が接触します。そして摩耗が進み、最終的には焼き付きます。
その2つの領域の中間、黄色の領域は「混合潤滑」といいます。流体潤滑と境界潤滑の両方が混在しています。レシプロエンジンのピストンリングとシリンダー壁間の潤滑状態はとても過酷で、この混合潤滑状態にあると言われています。
さて、エンジンオイルで燃費向上するためには、摩擦係数が小さいほうが有利ですから、ストライベック曲線の極小点を狙い、エンジンオイルを低粘度化します。
しかし曲線を見ればわかるように、ゾンマーフェルト数が少しでも低下すると極端に摩擦係数が上昇する危険な領域!
そこで、低粘度オイルにはFM(フリクションモディファイア、摩擦調整剤)を添加して減摩効果を狙います。
低粘度エンジンオイルで燃費向上効果を得られても、それは意外なほど僅かで、しかもFMは使用過程で消費しますから、潤滑状態に余裕のある粘度のエンジンオイルで摩耗を遅らせるのが、エンジンという機械にとって優しい選択であることは間違いありません。
メーカー指定で5W30などのエンジンオイルが使えないとなると、幻の添加剤といわれる丸山モリブデンが状況を改善する一手になるかもしれないのです。
(次回に続く)
近藤暁史 says
更新楽しみにしてました。
最近は表面加工、処理も含めての超低粘度化なのと、軽でターボとはいえ日本のユーザーは回さないことを前提かと。
FMは今では消耗をほとんどしないものもあります。
その分、高くなりますが、メンテナンスパックで、ディーラーに囲まれているのでどうしようもないと思います
データシート見ると、確かにギリギリのところではありますが、とくに軽はエンジン以上に車体の寿命が短い傾向にあるのでいいんでしょうね。
そもそもオイル交換に対する意識が低いですし。これが1番の問題な気がします
ITS says
近藤暁史さま
早速コメントいただきありがとうございます。更新をお待ちいただいていたこのこと、大変嬉しく励みになります。ライフスタイルに大きな変化があって体調を整えるのに精一杯。このような更新頻度になってしまいました。
特に自動車メーカー純正オイルが比較的高価なので、FMに工夫がされていると感じていましたが、ほとんど消耗しないタイプがあるのですね。
仰せの通り、相対的に軽自動車の方がエンジンオイル管理が行き届いていないことと、想定外の状況が起こることも考えると、大切なエンジン内部潤滑に余裕がない低粘度オイルは、燃料節約と引き換えに失いそうなものが大きすぎる印象を拭いきれません。