国産車で概ね15年、輸入車だとその半分の7年ほどで、どれだけ丹念に手入れしていても、外観の劣化が色々現れてきます。
現在主流のポリカーボネート製ヘッドライトの黄変はその典型です。何度か記事でご紹介した通り、素材表面を研磨で整えることで、外観の甦りが比較的容易です。
ところが部品に施した塗装(塗膜)が劣化した場合は、そう簡単ではありません。
例えば、こちらのミラーカバーは諸作業の合間や休憩時間に少しずつ再生を進めているものです。
2層塗装の上面側、クリア層が浮き上がって剥離しています。
塗装済みのミラーカバー単品の供給が受けられる車種はたいへん幸せで、部品交換で問題は解決しますが、残念ながらこちらのミラーカバーは単体の部品設定が無いうえ、サイドミラー全体の部品供給さえも終了していました。
となると再塗装するしかありません。
とても安易にイメージされがちな補修塗装。スプレーで同じ色をシュッとひと吹きすれば元通りに綺麗にツヤツヤになる?
いやいや、一度でも自身の手で塗装を試みられた方であれば、その難しさ、奥深さがお分かりでしょう。
また、経年劣化は一様ではありません。量産品の新品ミラーカバーに施される塗装と、僕の行う塗装は、塗料、環境、効率、工程などまるで違います。
塗装というと、スプレーガンを華麗に操る花形作業がメインに思われがちですが、補修塗装の場合は、下地を整えるのに9割以上の時間を割きます。劣化塗装を除去することから始め、とにかく下地を入念に作ります。ほんの少しでも妥協があると誤魔化しが効かず、最後の最後まで影響するのです。
それはまるで人生の縮図。
数々の失敗や経験、骨折りの継続と積み重ね。イメージ通りの仕上がりがなかなか得られないからこそ楽しいのかもしれません。
並行して廃業塗装工場から引き揚げた原色を使って調色します。調合データはあくまで参考です。日に焼けて褪せた赤、ボディーの経年塗色とのバランスを取ります。
親子ほど年齢差のある大先輩から譲り受けたデヴィルビスの低圧ガン(LPHVガン)はほんとうに秀逸で、缶スプレーとは次元の違う仕上がりになります。
僕の塗装環境は、プッシュプル式塗装ブースのようなダストフリーの環境ではありません。細心の注意を払っても埃の付着や、塗装のハジキは回避できません。その問題を極力少なくするため、超速乾・超速硬化で切削、研磨性の良い2液ウレタン塗料を使っています。
小さな埃が付着しているのが見えますでしょうか。速乾、速硬化の影響で「ゆず肌」も目立ちますね。
こちらは塗装のハジキです。ここは油脂を使う一般の自動車整備の環境ですから完璧はないのです。
面相筆で塗装の凹みに同一色を肉盛りします。
ダブルアクションに装着した#1200相当の研磨紙で、埃、ハジキ補修の肉盛り、ゆず肌を一気に研磨。
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肌調整用の切れの良いコンパウンドを使って塗装肌の調子を見ながら研磨を進めます。
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最後に仕上げ用の極細コンパウンドとスポンジバフで磨き上げ、
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ドアミラーユニットに装着して完成です。
簡略的に大まかな補修塗装作業を説明しましたが、実際はこれ以外の工程がいくつかございます。