カテゴリ: メンテナンス一般

CVT・AT等変速機のフルード交換の是非について ~車のよろず相談室6~

今回のご相談は、僕自身も結構悩む自動変速機のフルード交換についてです。

いつも整備業務及び車全般の相談事で大変お世話になっています。

今回このよろず相談室でご相談したい件は、CVT・AT等変速機のフルード交換の是非についてです。

先ごろ、所有しているプリウスαのリコールでディーラーに行った際にふと気になり「プリウスαのCVTフルードの交換って必要あるんでしょうか?」と質問しました。

ディーラーの回答は「プリウスαのCVTフルードの交換は基本必要ありません。オーナーズマニュアルにも何万㎞ごとに交換して下さいとの記載が無いようにフルード無交換で変速機に不具合が出たという事例は当方では経験ありませんし無交換で大丈夫と判断しています。但し、オーナー自らがどうしても交換をと希望される場合は、それが元での不具合発生リスクが少なからずあり保証もしかねる旨を説明した上で、納得して頂ければ交換作業をしますがディーラー側から交換を推奨することはありません。」との事でした。

プリウスαはハイブリッド車と言う特殊な車で変速機が従来車の機構とかなり違い内部部品の消耗度合が少ないであろうしフルード無交換というのも納得出来るのですが、既存のガソリン・ディーゼル車に搭載されているCVTや有段AT等の変速機については、自動車メーカーにより数万㎞で交換を推奨している場合もあれば故障するまで無交換を指定してる場合もあったりとまちまちで考え方が一致していません。

web上でも、変速機(プリウス等ハイブリッド車も含む)のフルードは消耗品で劣化するから数万㎞ごとに定期的に交換するべきだという意見もあれば、今の変速機は簡単には壊れないし交換による不具合発生のリスクを考えると無交換のままでよいという意見もありと真っ向から分かれていて、本当に正しいのはどちらなのか?と車についての知識が疎い私はとても疑問を持つ次第です。

プロ整備士のたけしさんの目から見ての変速機のフルード交換の是非についての見解をお教え願いたいと存じます。

まず最初に、質問者様がトヨタ系販社でお尋ねになったプリウスなどハイブリッド車のCVTについて。

カタログなどの表記が「電気式CVT」となっているので、恥ずかしながら、僕も最初はスチールベルトを二対のプーリーで挟み込む、ベルト式CVTの特殊な電子制御版と勘違いしていました。


THS(トヨタハイブリッドシステム)に搭載されている変速機は、他の変速機とは違って機械構造は極めて単純です。

3つの接続箇所(サンギア、プラネタリキャリア、アウターギア)があるプラネタリギアユニット(遊星歯車機構)に、それぞれジェネレーター、エンジン、モーター(出力軸)を接続。エンジンを発電にも駆動にも使ったり、余ったエネルギーを充電したり、入出力をきめ細かく制御することで無段変速を実現しています。

制御が複雑なのに対して、機械的にはプラネタリギアとファイナルギアだけの単純な平歯車の組み合わせです。潤滑しているフルードは、きっと無交換でも大丈夫でしょうし、交換しても大きなリスクもないと思います。古いフルードを入れたままだと気持ちが落ち着かないようなら交換しても問題ないでしょう。

一方、スチールベルトを二対のプーリーで挟み込むタイプのベルト式CVTは、ベルトとプーリーの金属同士の摩擦を利用して動力を伝達しています。

高い摩擦力が必要な反面、変速時にはベルトがプーリー上を滑らないといけない。また、高い摩擦力を得ながら焼き付きを起こさないなど、相反する性質の両立を求められる、技術課題満載の機構です。

金属同士の摩擦を積極的に利用していますから、他の変速機と比較して動力伝達効率が高くありません。けど、スチールベルト式のCVTにこだわり、各メーカーが長期間、難題に取り組む一番の理由は、幅広い変速が途切れず連続可変することで、実質燃費が向上するからなのです。上手なドライバーがマニュアルミッションを操ると、とても燃費が良いのと同じ理屈です。

スチールベルト式のCVTに使われているフルードが、各社、各種変速機でそれぞれに応じた複数種が標準で用意されています。絶妙なバランスで成り立つ機構だけに、CVTフルードが担う部分が大きく、専用の配合がされているだろうことは容易に想像できます。

油量、油種の管理が適切にされないと、故障のリスクが増しますから、無交換で故障するまで使用するという考え方がある一方で、適切に油種選択をして管理さえすれば、無交換より高耐久で良いドライブフィールが長期間得られるということでもあると思います。

これは、従来型の有段ATについても言えるでしょう。ベルト式CVTほどシビアな設計でないにしても、湿式クラッチやバンドブレーキなど摩擦要素のある変速機ですから、長期間摩擦要素の摩耗を緩慢にするためにはフルード交換は必要ですが、油種、油量、交換の要領を適切にしないと故障のリスクが増大するのは同じです。

それぞれの機構をよく理解し、標準のフルードを適切な要領で適切な時期に交換(もしくは無交換)ということになるでしょうか。

僕の場合、自動変速機のフルード交換はオーナー様と必ず相談いたします。

あなたのご質問・ご相談お待ちしております。どこにも聞けない素朴な疑問に無料でお答えいたします。

車のよろず相談室(無料)

Published by
ITS