今回のご相談は、僕自身も結構悩む自動変速機のフルード交換についてです。
いつも整備業務及び車全般の相談事で大変お世話になっています。
今回このよろず相談室でご相談したい件は、CVT・AT等変速機のフルード交換の是非についてです。
先ごろ、所有しているプリウスαのリコールでディーラーに行った際にふと気になり「プリウスαのCVTフルードの交換って必要あるんでしょうか?」と質問しました。
ディーラーの回答は「プリウスαのCVTフルードの交換は基本必要ありません。オーナーズマニュアルにも何万㎞ごとに交換して下さいとの記載が無いようにフルード無交換で変速機に不具合が出たという事例は当方では経験ありませんし無交換で大丈夫と判断しています。但し、オーナー自らがどうしても交換をと希望される場合は、それが元での不具合発生リスクが少なからずあり保証もしかねる旨を説明した上で、納得して頂ければ交換作業をしますがディーラー側から交換を推奨することはありません。」との事でした。
プリウスαはハイブリッド車と言う特殊な車で変速機が従来車の機構とかなり違い内部部品の消耗度合が少ないであろうしフルード無交換というのも納得出来るのですが、既存のガソリン・ディーゼル車に搭載されているCVTや有段AT等の変速機については、自動車メーカーにより数万㎞で交換を推奨している場合もあれば故障するまで無交換を指定してる場合もあったりとまちまちで考え方が一致していません。
web上でも、変速機(プリウス等ハイブリッド車も含む)のフルードは消耗品で劣化するから数万㎞ごとに定期的に交換するべきだという意見もあれば、今の変速機は簡単には壊れないし交換による不具合発生のリスクを考えると無交換のままでよいという意見もありと真っ向から分かれていて、本当に正しいのはどちらなのか?と車についての知識が疎い私はとても疑問を持つ次第です。
プロ整備士のたけしさんの目から見ての変速機のフルード交換の是非についての見解をお教え願いたいと存じます。
まず最初に、質問者様がトヨタ系販社でお尋ねになったプリウスなどハイブリッド車のCVTについて。
カタログなどの表記が「電気式CVT」となっているので、恥ずかしながら、僕も最初はスチールベルトを二対のプーリーで挟み込む、ベルト式CVTの特殊な電子制御版と勘違いしていました。
THS(トヨタハイブリッドシステム)に搭載されている変速機は、他の変速機とは違って機械構造は極めて単純です。
3つの接続箇所(サンギア、プラネタリキャリア、アウターギア)があるプラネタリギアユニット(遊星歯車機構)に、それぞれジェネレーター、エンジン、モーター(出力軸)を接続。エンジンを発電にも駆動にも使ったり、余ったエネルギーを充電したり、入出力をきめ細かく制御することで無段変速を実現しています。
制御が複雑なのに対して、機械的にはプラネタリギアとファイナルギアだけの単純な平歯車の組み合わせです。潤滑しているフルードは、きっと無交換でも大丈夫でしょうし、交換しても大きなリスクもないと思います。古いフルードを入れたままだと気持ちが落ち着かないようなら交換しても問題ないでしょう。
一方、スチールベルトを二対のプーリーで挟み込むタイプのベルト式CVTは、ベルトとプーリーの金属同士の摩擦を利用して動力を伝達しています。
高い摩擦力が必要な反面、変速時にはベルトがプーリー上を滑らないといけない。また、高い摩擦力を得ながら焼き付きを起こさないなど、相反する性質の両立を求められる、技術課題満載の機構です。
金属同士の摩擦を積極的に利用していますから、他の変速機と比較して動力伝達効率が高くありません。けど、スチールベルト式のCVTにこだわり、各メーカーが長期間、難題に取り組む一番の理由は、幅広い変速が途切れず連続可変することで、実質燃費が向上するからなのです。上手なドライバーがマニュアルミッションを操ると、とても燃費が良いのと同じ理屈です。
スチールベルト式のCVTに使われているフルードが、各社、各種変速機でそれぞれに応じた複数種が標準で用意されています。絶妙なバランスで成り立つ機構だけに、CVTフルードが担う部分が大きく、専用の配合がされているだろうことは容易に想像できます。
油量、油種の管理が適切にされないと、故障のリスクが増しますから、無交換で故障するまで使用するという考え方がある一方で、適切に油種選択をして管理さえすれば、無交換より高耐久で良いドライブフィールが長期間得られるということでもあると思います。
これは、従来型の有段ATについても言えるでしょう。ベルト式CVTほどシビアな設計でないにしても、湿式クラッチやバンドブレーキなど摩擦要素のある変速機ですから、長期間摩擦要素の摩耗を緩慢にするためにはフルード交換は必要ですが、油種、油量、交換の要領を適切にしないと故障のリスクが増大するのは同じです。
それぞれの機構をよく理解し、標準のフルードを適切な要領で適切な時期に交換(もしくは無交換)ということになるでしょうか。
僕の場合、自動変速機のフルード交換はオーナー様と必ず相談いたします。
あなたのご質問・ご相談お待ちしております。どこにも聞けない素朴な疑問に無料でお答えいたします。
K.Y. says
たけしさん、質問のご回答ありがとうございます。
プロ整備士のたけしさんでも変速機のフルード交換については非常に悩まれるんですね。
私が乗っているプリウスα等ハイブリッド車のフルード交換については、機械構造が単純なのでフルードが担う負担も従来の変速機に比べ少なく劣化する度合いも緩やかなので無交換でも大丈夫と理解してよろしいでしょうか?
他方従来のCVTや有段ATについては、適切な油量・油種の管理をきちんと行うことが変速機の故障リスクを少なくする方法、すなわちその車の変速機構造に適したフルード管理方法を実践し、標準のフルードを適切な要領で適切な時期に交換する、というのが変速機を長持ちさせる最良の方法と理解しました。
僕なりの見解を申し上げますと、フルード無交換を推奨しているメーカーは、車の乗り替え時期(新車購入の場合)5年・10万㎞の間を問題なく保証し使用出来ればOKで、中古車市場に回る事や20年・20万㎞以上走行するまで保有するユーザーについては、そこでの変速機のトラブル・故障等は想定外の範囲であるという考え方ではないのか?という風に見受けられます。
話しが横道に逸れますが、車も短期耐久消費財的物の扱いになり、1台の愛車を長期間大切に保有するユーザーに対しては随分と不親切な扱いしかなされていない様に思えます。
税金にしても、本来1台の車を長く大切に寿命を全うするまで使用するユーザーが優遇されるべきであるはずなのに13年以上保有すれば重課税され、片やハイブリッド車等も含め政府が指定する環境規制がクリアされている新車に乗り換える場合は、どんなに高額な車両価格の車であろうと自動車取得税が免税・1年目の自動車税が半額免税等と税優遇措置が受けられるという、政府と自動車メーカーが新車販売を促進するがために物を長く大切に使用するユーザーを蔑ろにする結果になっている本末転倒な車社会が現在の日本で少々腹立たしい思いを持ちます。
そんな事にはめげずに愛車を末永く寿命を全うするまで乗るには、たけしさんのようなプロ整備士と常々愛車のコンディションを綿密に相談しながらメンテナンスを心がける事が重要ですね。
フルード交換の話が最後は横道に逸れてしまい申し訳ございませんでした。(笑)
たけしくん says
K.Y.さん
早速のコメントありがとうございます。
まず、THSのオートマチックフルードに関しましては、無交換で問題ないと思います。交換するとすれば、経年次第というところでしょうか。15年ほど経過すれば一度は交換したほうがいいかもしれません。
フルード無交換と記載のある車種につきましては、ご想像の通りと思います。欧州車のクーラント無交換の記載と同じですね。いずれも長期間使用する場合は、適切な時期に標準のフルードとの交換が望ましいと思います。
そして最後のお話に関しまして、僭越ながら私の意見を述べさせていただきます。
天然資源を豊富に持たないわが国は、自動車産業で成り立っていると言っても過言ではありません。
国が新しいエコカー購入者を優遇する第一の理由でしょう。
しかし一方で、地球環境に目を向けると、一台の自動車を大切に乗り続けるほうが負荷が少ないのは明白です。地球上に自然に存在している物質を、様々に加工して仕立てる自動車は、当然、自然のサイクルから逸れていますから、枯渇の日はいつかやってきます。
自動車産業無しでは成り立たない現在の日本経済ですが、少々産業規模が膨らみ過ぎている感じがありますね。以前に増して大量生産大量消費が加速しているような。
自動車は適切に整備すると思いのほか調子よく長期間使用することができる工業製品です。そして何より、調子の良さはドライバーの喜びに繋がります。
またご来店時に色々お話いたしましょう。今後ともよろしくお願い申し上げます。