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ニュートラルのままギアが入らないアルファロメオのセミオートマ不調(アルファ147 2.0TS selespeed)

セレスピードというアルファロメオの有名なセミオートマチック機構は、人間の代わりにマニュアルトランスミッションを操作してくれる油圧ロボットです。フィアットに積まれるとデュアロジック、ランチアだとDFNと言われて外観の差異がありますが、作動油タンクには「SELESPEED」の浮き文字がありますので、マニエティ・マレリが製造する同じような機構と考えていただいて差支えありません。

僕はそんなに多くのセレスピードを診てなくて、ある程度決まったパターンの故障を期待してWebの故障事例を参考にするのですが、サラっと見るだけでも実に様々な不調・不具合があり、その掴みどころのなさに驚きます。

空気圧を利用した同様の仕組みは大型バスやトラックなどでも一般に備わるものがあり、機構原理に疑問はないのですが、ことセレスピートに至っては「立ち往生など当たり前、予兆なき不調はむしろ自然で、好調のアルファロメオは儚いからこそ美しい。」愛好家の間ではそんな覚悟をもって乗るものなんだそうです。

平成18年式 GH-937AB ツインスパーク2.0 セレスピード 走行距離65,000km

あまり良い噂を聞かないものですから、遠方へのドライブはお控えくださいね、といつもオーナー様に申し上げるのですが、今年の3月初旬、京都から遠く離れた場所でニュートラルのままギアが入らなくなったと、慌てた様子でお客様から連絡が入りました。

よく伺うと継続的な不調ではなく、エンジンを掛け直すと概ね調子を取り戻すようで、動くあいだにと、ゆっくり慎重に帰途に就かれました。道中でNのままシフトできないことがあったり、ゴール目前では1stギアから変速ができなくなったりで、何とか自宅ガレージに到着されたとのこと。

繁忙期でなかなか拝見できずにいましたが、診断機を実装したラップトップPCを携えて、ほど近いガレージに向かいます。

前回の定期点検時にはなかったレバースイッチの故障歴が2つ。これは現在進行の故障ではないのでスクリーンショットを保存して一旦消去します。

レバースイッチとは、センターコンソールのシフトレバーのことですが、新品部品は国内に無く、オーダーするとおそらく供給終了との返事が来るパターン。そもそも10万円近くするモノですから、よく調べないまま注文するのは利口ではありません。

今一度不調の状況をお客様に伺うと、エンジンを掛けてレバースイッチを操作してもニュートラルのままギアが入らないという他に、4速や5速で走行中から停車に向かうとき、正常時は減速に伴って順に1速まで自動でシフトダウンするところが、3速から突然ニュートラルになり、その後どこにもシフトできないことが何度かあったそうです。

これはレバースイッチと無関係なように思えます。

時々しか出ない不調ですから少しでも診断を前進したくて、安価な中古動作品のレバースイッチを入手し、消去法的にレバースイッチ交換後の変化、理想的には症状の再現ができないか試してみることにします。

取り寄せたレバースイッチの台座裏にはヴァレオ(フランス)の浮き文字があって、マニエティ・マレリ(イタリア)のシステムなのに不思議な組み合わせです。

その台座に四角垂台状のレバースイッチが載るアッセンブリーですが、台座部は新車製造時の都合(だと思う)で車室外に配置されていて、直下には遮熱板や排気管が通ります。幸いポジドライブのタッピング4本を緩めるとスイッチと台座は簡単に分離できますので、スイッチ部分のみを交換するのが合理的でしょう。

中古レバースイッチの交換前後共、停車アイドリング時にシフト(N→1など)を繰り返したり、近くを運転しましたが不調になることはありませんでした。油圧ポンプの作動音も軽快ですし、診断機上のシステム圧は43~55bar付近で制御されていて問題なさそうです。もちろんフォルトコードも記憶されません。

ポンプ本体の不具合にしては好調が続きすぎに思いますし、アキュームレータ(蓄圧器)の不具合としたらこんなに油圧保持が安定しないと思います。やはりレバースイッチの不具合なのか… なんだか釈然としません。

そういえば、このシステムにはポンプの通電を制御する50A容量の大きなリレーが備わることを思い出しました。

リレーのスペックからすると、電磁ポンプには比較的大きな電流が流れるようです。電磁ポンプやファンモーターなど、誘導負荷が接続されるリレー回路で忘れてならないのは、通電遮断時に発生する大きなサージです。

こちらのリレーは理由不明の品番変更が何度かあるようです。回路上にサージアブゾーバなど相応の対策がされているのでしょうか?少しリレーの不調を疑って、入庫翌日も停車アイドリング状態で症状の再現を試みました。

すると、テスト開始後程なくニュートラルのままシフト操作できない状況に陥ります。

システム圧はポンプが作動開始する43barを下回り、ポンプリレーの制御はONしますが、ポンプが作動しません。一気にシステム圧は下がり、フェイルセーフでリレーの制御もOFFのままとなりました。

ここでストックしていた156セレスピードから取り外した中古リレーに交換。

キーONすると、軽快なポンプ音とともにシステム圧は50bar以上に上がりました。

再度、元ついていたリレーに交換してテストすると、すぐに不調が再発。そして156のリレーに交換すると不調は出ません。こうしてリレーの不具合と断定できました。

元のリレーを分解してみますと、

接点はかなり荒れ模様です。

今回取り寄せた純正リレーは、ビトロン(イタリア)ではなく、Made in Italy のオムロンでした。

調べると2004年にオムロンは、欧州市場での車載リレー事業推進のためビトロンを合併して子会社化。こちらのアルファ147の製造時には子会社は設立されていたことになりますが、旧ビトロンロゴのリレーが使われていました。

診断機のポンプONカウンターは3万回弱。一般にリレーの寿命は10万回を最低ラインと考えられているので、随分早い寿命です。新しくなったオムロンロゴのリレーに良い対策が講じられていることを期待しつつ修理完了としました。

尚、何度も不調が出ましたがセレスピードのECUには、レバースイッチのフォルトはもちろん、油圧低下とか、リレースタックといった他車種で見られる記録はありませんでした。診断機が表示する情報と実際の故障の関連が薄いですね。

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ITS