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ジムニーのキングピンベアリング交換を終えて思うこと(ABA-JB43W ジムニーシエラ 定期メンテンナンス)

ご存じジムニーは、小さい車体ながら、前後リジッドアクスル&ラダーフレーム構造の本格クロスカントリー4WDです。

ベースの構造が本格的ですから、さらなる悪路走破性を求めて様々な改造パーツが市販され、オーナー自らメンテナンスされていることも珍しくないようです。

今回はキングピンベアリング交換の依頼がありました。

高速走行時にハンドルがブルブルと振動する「シミー」や「ジャダー」と呼ばれる不具合回避のメンテナンスです。

前軸リジッドアクスル車特有の構造で、操舵回転軸に「キングピン」と言われる片側一対の対向するテーパーローラーベアリングが備わります。

操舵と駆動、駆動の断続をハブナックル近辺に集中配置していますので、独立サスペンションの前軸にはない構造です。

平成27年式 ABA-JB43W M13A 5MT 走行距離 101,000km

ペースト状のグリースを扱う作業のため、カメラに触れるのをためらわれ、写真が少なくて申し訳ありません。

一般の方が某動画サイトなどで奮闘されている姿をいくつか拝見しました。グリースの取り扱いに慣れていないと、手も工具もクルマもベタベタに油汚れが付着して、始末に負えないことと思います。

まあ、汚れるのも「楽しみ」として取り組んでいただければ良いか、と最初は微笑ましく視聴していたのですが、ベアリングにグリースを充填する手さばきがデタラメだったり、そもそも工具を扱う手つきが危なすぎて途中で見ていられなくなりました。特に危ないなと思ったのは、ロッドエンドを外す特殊工具の扱いが危険回避の措置を取っていなかったことでした。ケガをされていなかったので良かったですが、趣味として楽しんでいただくためにも、基本的な安全への配慮は大切だと思います。

別の動画では、同じロッドエンドの離脱に、その昔緊急手段として存在した「ダブルハンマー法」を使う人もいらしたことに驚きました。

大きめのハンマーをロッドエンド付近のナックルアームに2つ直列に宛がって、玉突きの原理で衝撃を与え、瞬時の弾性変形でテーパー勘合を解くというものです。

大きなハンマーで対象の芯を捉え、キツい勘合を解くのが「プロっぽい」印象を与えたのは今は昔。そんな方法を日常的にされているプロはもういないと思います。

さて、今回使用するグリースはお客様と入念に打ち合わせ、十分に相談して決定しました。

アクスル内部にはバーフィールド型の等速ジョイントが備わりますが、ここはお客様がお調べいただいたスズキ純正のスーパーグリースHを、

キングピンベアリングと等速ジョイントの周りを覆うように充填する場所には、TOYOTAの多目的グリースのNo.3をチョイスしました。


TOYOTA トヨタ純正 MPグリース No.3 08887-00201 2.5kg

ちなみに、サービスマニュアル(整備要領書)には、これら2種のグリースの充填法や種別の明記がありませんでした。

サービスマニュアルはあくまで参考です。周知のことなどは割愛されていることが珍しくありませんので、一般の方がこのマニュアルをご覧になって、その通りに作業されていると間違う可能性がありますね(それにしても今回の部位の説明書きに限っては不親切すぎると思いました)。

作業終盤に気になったのは、キングピン取り付け面の液体シール剤です。

取り外した後の残留したシール剤の清掃で気が付いたのですが、パーツクリーナーに溶解する液体シールが新車製造時に使われていたようです。例えるなら硬いブチルゴムのように感じました。

パーツクリーナーに溶けるということは、グリースにも溶けやすいと考えられます。

特に上側のキングピン付近に浸水による腐食がみられることが多いのはシール剤の不適切かもしれません。

ここには愛用の LOCTITE SI 5699 GREY を使いました。

油馴染みが非常によく、スズキ車によく見られるテーパーのミッションオイルドレーンボルトの再シールにも適しています。再メンテナンス時の剥離性が容易なのと、多くの国産新車製造ラインに使われていることを知ったのが使い始めたきかっけでした。


LOCTITE ロックタイト 液状シリコーンガスケット グレー 5699 液体 パッキン 40ml

今回、一般の方がご自身の愛車ジムニーに深く関わる文化があることを、配信動画の数の多さで改めて実感しました。熟練されている方には適切な工具を安全に使ってほしいなと思うと同時に、少年の夢を奪うようで大変心苦しいのですが、「不慣れ」や「挑戦」などの要素がもしあるならば、操舵や駆動というデリケートな部位に関しては、やはりプロにお任せになってはいかがかなと思います。

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