カテゴリ: 運転技術

ロールの誤解とショックアブソーバの役割 ~スポーツ走行と乗り心地の両立 ~

クルマの『スポーツ』には、たくさんの誤解があります。

低い車高、空力パーツ、ハイグリップタイヤ、軽量アルミホイールとインチアップ、小径ステアリング、金属製ペダル、ワイドトレッドなど…

それらは、サーキットを軽快・俊敏に駆けるレースカーのイメージです。


標準仕様に追加変更したメーカー特別仕立てでさえ、ほとんどがイメージ販売だと思います。標準仕様が「走り」の面で明らかに勝るからです。

レースカーは車体の安定のため重心を低くします。エンジンなど重量物の搭載位置を低くし、サスペンションの幾何学配置(ジオメトリ)を変更して車高を下げます。

((注)コイルスプリング交換だけの車高ダウンは、ロールが増します。重心が低くなってもロールセンターがそれ以上に下がるからです。重心を低くしたら、サスペンションアームの長さや角度など、足回りの設定を変更しなくては意味がありません。市販の多くのダウンスプリングのレートが極端に大きい理由です。)

サーキットを走る速度域ではダウンフォースを得る空力パーツも有効です。

空力パーツ装着が比較的少ないレースカーの場合は、ネガティブキャンバーをつけて、コーナリング時のタイヤ接地に重点を置きます。この場合、直進時はタイヤ内側の負担が増しますので、レースの長さやコースによってセッティングが決められます。

キャンバー調整式のクルマでいろいろ試したあなたはご存知と思いますが、ネガティブキャンバー角が大きいクルマのステアリングワークはとても難しく、特殊なドライビング技術が必要になります。

これらは全て、綺麗に整地された摩擦係数の大きい特別な路面で、クルマの速さを追求した手法なのです。

きちんとセッティングされたクルマを操る上級ドライバーの隣で山坂道を駆けた経験のあるあなたなら、本当の『スポーツ』走行をご存知と思います。

コーナリング時、何かと厄介者扱いされるロールを積極的に使うドライビング。

空力部品によるダウンフォースが期待できない山坂道で、カーブを安全に安定して曲がるには、ロールによるメカニカルグリップが必須です。

カーブ直前、ブレーキングで発生させた操舵輪への荷重を、ハンドルとアクセルの操作で、カーブ外側輪へ移動させます。

この運転技術は、一般に荷重移動と呼ばれていて、タイヤの真のグリップ力を引き出します。

ロールが嫌われるのは、カーブ外側輪が沈むより内側輪が浮き上がる『ジャッキアップ現象』が発生しているからかもしれません。

かといって、外側のサスペンションが縮まないようにコイルスプリングやスタビライザーを硬くすると、ロール抑制はできますが、乗り心地の悪化が避けられません。

一般道は、舗装道路であっても、轍や継ぎ接ぎ、マンホールや陥没個所など、凹凸・起伏の激しさは相当なもの。

自動車メーカーは、一般道走行市販車に適切なロードクリアランスとサスペンションストロークを設定しています。

レースカーを真似て、車高を低く、バネを硬くしたクルマで、舌を噛みそうな乗り心地を我慢し、不安定な挙動に翻弄されながら、あくせくハンドルを操作するのがスポーツですか?

基本的な運転技術を習得することが一番大切ですが、クルマ側を変更するなら、ショックアブソーバから始めるべきです。単にショックアブソーバが劣化しているか、もともと能力不足かもしれません。

多くのショックアブソーバは、縮み側より伸び側の方が減衰力が大きく設定されています。路面の凹凸には追従し、カーブ通過時には、内側のサスペンションが伸びるのを抑える効果があります。

コイルスプリングやスタビライザを変更しなくてもショックアブソーバを交換(変更)するだけで、嫌なロールをほとんど感じなくなり、路面の凹凸通過の乗り心地は格段に良くなるのです。

こちらは、欧州で販売されているKYB Ultra SR。

MADE IN JAPAN のハイパフォーマンスショックアブソーバです。純正形状で、減衰力は強めで固定式。

残念ながら、製造している日本では需要がないのか流通してません。