停車アイドリングでD(ドライブ)レンジに入れたままにしていると、エンジンからの振動が車体全体に伝わり大変不快。N(ニュートラル)に入れると多少振動が軽減するのがわかったけれど、信号で停車するたびにDからNにする操作は煩わしくストレスだ。
との訴えで、最初にお預かりしたのはもう1年も前のことです。
平成21年式 DBA-KGJ10 1KR-FE CVT 走行距離66,000km
この症状はエンジン(+トランスミッション)をボディーに接続する部分に備わるエンジンマウントインシュレータという免振ゴムの劣化が原因です。エンジン内部では燃料を燃焼させてピストンを激しく往復運動させていますから、その振動は強大なのですが、それを乗員にほとんど感じさせないのは、エンジンマウントという優れた緩衝材が備わるからです。
余談になりますが、モータースポーツでは、このエンジンマウントの歪みが動力伝達応答の妨げになるので、硬い材質に置き換えるのが一般的ですが、快適性を完全に犠牲にしても、わずかな動力伝達の向上を狙います。この改変でエンジンの振動は車体全体に伝わり、助手席の人との会話も難しいくらいの強烈なノイズになるというわけです。
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さて、自動車には一般に3つのマウント(補助的な1つが加わる車種もあります)が備わり、iQのように横置きエンジンのFF車の場合、不快な振動の原因はエンジン側(iQの場合は運転席側)のマウントの劣化の影響が大きいのです。エンジン+トランスミッションの塊は、エンジン側に重心があり、マウントの特徴的な形状と重量負担の影響が及ぶと考えています。
エンジンの重量でゴムが変形し、赤丸部分の隙間が大きくなっているのがわかると思います。振動吸収能力が劣化したり、本来触れない部分に干渉が起きるのが、振動の原因になります。
このエンジンマウントにはバキュームホースが接続されています。
バキュームホースは、エンジンのインテークマニホールドに接続され、発生する負圧(バキューム)を利用して、エンジンの振動特性を制御しています。すなわち、内部に通常状態とエンジン負荷時で硬さが変わる仕組みを持っていて、バキュームホースを通じてエンジンの負圧を感知することで、適切なタイミングでマウントの特性を変化させます。
アイドリング時には柔らかく振動を吸収し、走行時には硬くなってエンジンの動きを抑制するという、少し凝った機能を備えているのです。
その他の2ヶ所を含む3ヶ所の全交換が理想なのですが、不快な振動を抑えるという目的の整備では、運転席側の主たるマウントの交換で十分効果が得られることが多く、今回も一旦費用を抑えた処置に留めました。感覚的には8割ほどの振動低減効果があったものと感じています。
しかし、一旦不快な振動を経験すると、2割ほど残る振動もストレスになるようです。約1年6,000km経過して、やはり気になる振動が増えてきたようだとの訴えがあり、再入庫することになりました。
交換未実施だった残り2ヶ所のエンジンマウントです。
力を加えると、確かに劣化してひび割れは見られますが、断裂までには至っていません。最悪断裂してもエンジンが落下するような危険な構造にはなっていませんので、次の例のように完全断裂まで使い切るのもメンテナンススケジュールとしては悪くありません。
エンジンマウントを30万キロ以上使い続けるとどうなるのか?(トヨタ ヴィッツ UA-SCP10)
しかし、このわずかな劣化が、日常お使いの際に晒される振動ストレスの原因になっていることは確かです。3ヶ所のマウントをリフレッシュして、振動も駆動のレスポンスも改善されました。
快適なカーライフをお過ごしください。
2025年の年明け早々、同業者… 続きを読む