冬場はラジエーターからのクーラント漏れ事例が多発します。
夏季も冬季もクーラント温度は90℃付近まで上昇しますから、温度差が大きくなる冬はラジエーターのタンク接合部に、よりストレスを与えるからです。
平成21年式 CBA-HE22S K6Aターボ CVT 4WD 走行距離 135,000km
クーラント臭が強いので点検してほしいと入庫されたとき、ラジエーターのアッパータンクから漏れ出たクーラントは既に車両下部に滴下するほど症状が進んでいました。
ラジエーター本体は、少々知恵の輪的ですが、フロントバンパーを取り外すことなく車両下側から引き抜くことができます。
クーラント漏れは、ラジエーターアッパータンクの少し盛り上がったところ付近のクラックが原因でした。
走行距離13万キロを超えてますので、一度も実施していなかったサーモスタット交換を同時に実施しようと手配しましたが、予想外の難作業に直面します。
K6Aエンジン搭載のスズキFF軽のサーモスタット交換は何度か経験があり、特に苦労した記憶がなかったのですが、インタークーラーを外してサーモスタット周辺の部品配置を見て驚きました。
近年よく見かける樹脂ハウジングのサーモスタットASSYは、2本の長いM8スタッドボルトと1本の通常M8ボルトの3本で固定されていて、離脱のためにはスタッドボルトの長さ分、水平にスライドさせる必要があります。
ところが、下にあるM8ボルトでさえヒーターパイプに干渉し、さらにCVT上部に横たわるハーネスが邪魔をしてヒーターパイプも容易に取り外せそうにありません(作業中は写真を撮る余裕なく、こちらはサーモスタット交換後の撮影です)。
サービスマニュアルを閲覧すると、サーモスタットを取り外すために、CVT仕様車はヒーターパイプを取り外すとあります。
CVT上部の形状が、同エンジンの有段AT車やMT車とは大きく異なるため、ヒーターパイプの取り回しが違うようです。
長く曲がったヒーターパイプはシリンダブロック側面を伝ってウォーターポンプまで達し、ターボチャージャーの奥あたりでボルト固定されます。
予想通りと申しますか、ターボチャージャー取り外しの指示がありました。
たかがサーモスタット交換にターボチャージャー取り外しとは恐れ入ります。
ターボチャージャー周りは融雪剤と排気熱の影響で離脱困難なボルトが多数。できればこちらはターボチャージャー交換などの時にまとめて気合を入れて行いたい作業です。
目的のボルトは車両下から微かに見えます。経験上、少しでも見えたり触れたりできるボルトは高確率で着脱が可能なので手持ちの工具をいろいろ試します。
今回はラジエーターが収まるスペースが広く開いていましたので、工具を操作する右腕が入り、この角度で無理なくロングフレックスレンチを振ることができました。
ただし、このボルトが装着される場所は、ボルトの頭に向かってピンと伸ばした指の腹がやっと触れる程度の狭い場所。指でつまんで回すスペースはありません。
取り外しは容易でも、取り付けに際しては、指の腹に粘着テープや磁石をつけるなどして、目的の穴までそろりとアプローチ。
ヒーターパイプの穴位置と、シリンダブロックの雌ネジの整列は文字通り手探りですし、ボルトの一山を掛けるのに神経集中が必要です。
余談ですが、ラチェットメガネレンチはこのように「ツバ」付が便利です。目的のボルト周りは補強部材で囲われていることが多いからです。
トネ(TONE) 超ロング首振ラチェットめがねレンチ RMA-12L 二面幅12mm
下の写真はサーモハウジング離脱後のものですが、
このように長いスタッドボルトでサーモハウジングが固定されています。サーモハウジングが付いたままでスタッドボルトをダブルナット等で抜き取ると作業性が格段に良くなります。
こうしてターボチャージャーを取り外すことなくサーモスタットハウジングは無事交換できました。スタッドボルトを外せば、CVTのハーネス移動も必要ありません。
また、一度離脱したホース類はリークの可能性が高まりますので、基本的に再使用はしません。
ウォーターホースには癒着が付きものです。
旧ホースにはこんな風にカッターで切り込みを入れ、ホースリムーバーをその切り込みにジョイント方向へ挿入します。
そして、さらにカッターで切り込みを深くしていくとパイプに損傷や変形を与えずに綺麗に剥離することができます。
K6A+CVTのサーモスタット交換はDIY的には大変難しい作業と思いますが、今回はご要望の多かった整備要領を交えて記事にまとめさせていただきました。