前回記事『アルファ156 V6 2.5L 本国仕様 ~真の足回りを求めて(その3)~』の続きです。
ドイツから届いたEU本国仕様のコイルスプリングは、左右の自由長が全く違っていました。Webに掲載されていたショックアブソーバに組み付けられた状態の写真で、この判別は困難でした。
短いほうの上端には明らかに切断された痕跡があり、何らかの理由で分解されたサスペンションを組み立てるとき、スプリングコンプレッサで縮め切ることができなくて切断して組み付けたのではないかと思います。
下の写真のように、156の本国仕様スプリングは、ほとんど線間密着するほど縮めないと組み付けることができないからです。
とにかく状況をお客様にお伝えしたのち、1か月前にキャンセルしたメーカー出荷最後の1本の新品コイルスプリングを求めてE-mailのタイピングを急ぎました。
そして一週間後、メーカー返品されずに仕入れ先に運よく在庫されていた新品スプリングがDHLで手元に届き、ようやく本国仕様のコイルスプリングが1台分揃ったのです。
褪色した添付ラベルには間違いない品番の印字が確認できます。
その後、海を隔てたお客さまの手元にお届した本国仕様のコイルスプリングは早速組み付けされたようで、丁寧に写真をお送りくださいました。
車高は以前と比較して上がっていますが、腰高感は全くありません。全体の姿態を眺めると、スポーツパックに標準で取り付けられているサイドステップはむしろ不要かもしれません。
フェンダーアーチとタイヤの間隔も均一でとてもきれいです。
この数センチの車高の上昇で、サスペンションアームの角度が全体的に自然になります。
短いコイルスプリングだけで誂えたローダウンの156は、四輪のキャンバーがネガティブに振られたまま調整ができません。ネガティブキャンバーのついた操舵輪は、敏感すぎるハンドルの切り始めから切り込んでいく過程で接地感に急激な変化があります。
コイルスプリングのみの変更で車高を下げるとロールセンターが悪い方向に変化しますから、ロール量は増大し、カーブを曲がる途中で恐怖を感じる領域があります。ローダウンスプリングが硬いのはロール量増大の抑制と、底付き回避の目的があるのです。強化スプリングという呼称はそういう意味です。
『中庸』という言葉があります。
よいサスペンションを一言でいうとまさに中庸。どんな場面でも極端すぎず中立的です。路面との接地やハンドリングに違和感がなく、いたって普通にドライビングができるのです。お客様からも、同様の感想を頂戴しました。
アルファ156が日本にやってきたとき、異国のスポーツセダンに中庸は要らなかったのかもしれません。出来の良いサスペンションを「凡庸」と誤解されることをインポーターが恐れていたようにも感じます。
その証拠に、車高を下げた低いフォルムと、どこか尖ったステア特性は多くの期待を裏切らず、いままでにないセールスを記録したのです。
本国仕様のコイルスプリングは入手が大変難しくなってきました。今回の調達もお客様には大変ご心配とご迷惑をおかけしました。しかし、一人でも多くの方に本来のアルファ156のことを知っていただけて、僕はとても嬉しく思います。そして、紆余曲折あった海外調達で、たくさん勉強をさせていただきましたことに、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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