自動車の省燃費性能を各メーカーが競うようになって、低粘度エンジンオイルを目にすることが多くなりました。
最近ではSAE規格でいうところの0W16や、さらには0W8というとんでもない低粘度のエンジンオイルが新車に充填され、アフターマーケットにも出回るようになりました。
2000年を過ぎたあたりから市販されるようになった0W20を初めて目にしたとき、常温で従来品の5W30や10W30と比較してあまりにサラサラでおどろいたものですが、0W8や0W16はもっと水に近いといいますか、エンジンオイルのイメージとは違う液体に思えます。
さて、SAE規格の○○W△△ですが、W(Winter)の前につく○○の数字は低温始動性(オイルポンプで吸い上げることができる温度など)を規定したもので、小さいほど低い温度環境に対応しています。
マイナス25℃とかマイナス30℃といったような厳寒地でお使いの場合は、0Wと5Wの差が感じられますし、季節によって使い分けたりすることが大切かもしれません。
一方、こちら京都のような比較的温暖な気候の地域では、後ろの△△の数字が重要です。
特に真夏。高温で稼働するエンジンに入れるエンジンオイルに低粘度オイルはあまりにサラサラで、エンジン内部の摩耗や焼き付きが起こらないのか?と心配になるのは自然な感覚だと思います。
後ろの△△の数字は、SAE規格で油温100℃の動粘度(cSt、読み:センチストークス)と油温150℃のHTHS(高温高せん断)粘度(cP、読み:センチポワズ)で規定されています(難しい用語になります。イメージで捉えていただくか、詳しくはWebでご覧ください)。
数字が大きいほど高温時に粘度が高く、油膜が相対的に厚いので金属摺動部の保護に有利です。
一般に粘度は低ければ低いほど燃費性能には寄与するのですが、HTHS粘度が2.6を下回ると急激に摩耗量が増えるといわれています。
○○W20の150℃時HTHS粘度が2.6以上とされている理由です(欧州規格のACEAでもHTHS粘度は2.6以上とされているようです)。
日本の一般道で使用する場合、油温が150℃になることはまずありませんし、自動車メーカーも各種テストを繰り返していますから心配しすぎかもしれません。
しかし、○○W20でさえギリギリ感があって使用をためらうのですが、0W16や0W8の150℃HTHS粘度は2.6を軽く下回っています。
HTHS粘度だけ見ると非常に頼りなく感じる低粘度エンジンオイルですが、メーカー純正品には対策が講じられています。
その代表は、『有機モリブデン』の配合です。
フリクションモディファイア(FM)や摩擦調整剤と呼ばれるものです。有機モリブデンは透明です。同じモリブデンでも、話題の丸山モリブデンの黒い主成分(二硫化モリブデン)とは違います。
有機モリブデンは、金属同士が接触して摩耗したり焼き付いたりする前に、二硫化モリブデン皮膜を金属表面に形成し、潤滑性を向上させる目的で使用され、使用過程で消費します。
そして、透明なので誤解されがちですが、ベースオイルによく溶けるとされている有機モリブデンの配合濃度には限界があります。たくさん入れればいいというものではなく、適した濃度がありますし、高濃度配合をする場合はさらなる添加剤の使用など相応のノウハウがあります(ですから、有機モリブデンと書かれた市販添加剤を、有機モリブデンが適量添加されている低粘度エンジンオイルに、追加注入することは必要でないばかりか、追加する有機モリブデンの濃度によっては逆効果になる可能性があります。)
各種テストをクリアしたメーカー純正の低粘度オイルは、足りない性能を薬(添加剤)で補っているように思えますし、他方、メーカー純正以外の低粘度オイルはSAE規格としては同じでも内容はどうなのかなと疑問に思う部分があります。
結論として、多少の燃費は犠牲にしても、もともと優れたベースオイルを使う5W30(HTHS150粘度2.9)以上のエンジンオイルが、とてもシンプルで安定して高性能に感じますし、長くお乗りいただくお車に安心してご提供できるのです。
次回は摩擦学(トライボロジー)の視点から低粘度オイルを見てみます。
↓グループIIIベースオイル使用のMOTUL代表格。コストパフォーマンスに優れたスタンダードオイルです。