前回記事『前照灯試験(ヘッドライト検査)と保安基準《その3》』の続きです。
2015年1月、車検時、ハイビーム検査からロービーム検査に移行する内容の前照灯試験(ヘッドライトテスト)の変更予告がされました。
本来、前照灯検査(ヘッドライト検査)は、自動車ユーザーにとって安全で良好な夜間視界を確保することが目的です。
ロービームを主体に製作された近年の自動車のヘッドライトは、車検はロービームで行うことが望ましいと思います。
しかし、この目的を達するために定められた性能要件・計測方法・審査判定方法は、予想される計測誤差が、審査基準に対して大きすぎて、判定に影響するかもしれないという懸念があります。多くの整備事業者様も同じ感想をお持ちではないでしょうか?
自社のヘッドライトテスターでロービーム計測した例です(平成16年式 トヨタ サクシード CBE-NCP51P)。テスターのスクリーンに映し出されたロービームの配光パターンです。
説明のためのラインを描きました。
対向車に眩惑を与えないための明暗が上下に分かれます。この明暗を分ける線を「カットオフライン」と呼びます。画像中心の「エルボーポイント」と呼ばれる角度の変化する点の右側は水平に近く、左は10°~15°の傾きで斜め上方向に向かいます。
合否判定はエルボーポイントの位置で行います、この画面では、左右はそれぞれ1.55°、上下はそれぞれ0.38°の範囲の黄色い長方形内に収まることが条件になります(1マスは1°)。
この例の場合、明暗の境界の曖昧な幅が、合格範囲に対して大きすぎると思いませんか?
また、カットオフラインの左側立ち上がり角度の非常に小さいヘッドライトの配光も存在します。カットオフラインの位置決定の方法次第で、エルボーポイントの左右位置に大きな差を生じることがわかると思います。
ハイビームの合否判定は、最高光度点の位置で行っていました。高価な試験機ならCCDで捕らえた画像解析で求められます。そして、廉価版の機器でも上下左右に配置した光電素子の出力差分を求めるなど、比較的単純な計測原理で精度高く測定できます。ところがロービームのエルボーポイントは、同じ「点」でも、位置計測の前段にカットオフラインという2次元形状解析を経るため、最高光度点のみを求める1次元解析とは文字通り「次元の違う」解析技術が必要になります。
ハイビーム計測に対して桁違いに難しいロービーム計測で得た値を、同レベルの審査判定に掛けることに違和感を覚えるのです。各メーカーの検査機器がどのようなアルゴリズムでエルボーポイントを求めているのか定かではありません。しかし、明暗の境界を決める光度の閾値、ヘッドライトの種類毎に異なるカットオフラインの形状など、よほどの合理性と整合性を持たないと、測定誤差が合格範囲に対して十分小さくならないように感じます。
次にZ型配光と呼ばれるロービームの照射パターンの一例です(平成24年式 日産 ルークス ハイウェイスター DBA-ML21S)。
低い方の水平ラインから立ち上がる場所をエルボーポイントとして計測します。
この画像の状態は、実際に軽自動車検査協会の車検コースで合格したものを、調整せず自社テスターに掛けたものです。
左右0°でぴたりと合っているように見えますが、車検コースでの計測結果は右側に1.32°(10m先で23cm右側)と基準の1.55°(10m先で27cm)ぎりぎりの合格だったのです。
このように、僕が平成19年当時、ロービーム計測を検証していた頃とさほど変わらず、自社ヘッドライトテスターと車検コースの計測結果に大きな差が出ることが懸念されるのです。今後、日常業務に差し障りの無いように、車検に合格するための技巧研鑽をすることになるのでしょうが、本質を欠いた努力は一体誰の利益になるのかと感じます。皆様、いろいろなご意見があるかと思いますので、コメント欄等でお知らせいただけるととてもうれしく思います。
↓僕がロービーム検査について独自検証していた直後の公開情報です(現在は閲覧できないようです)。
審査事務規程の一部改正の概要(制動装置及び前照灯に係る審査事務規程の一部改正)に関するパブリックコメント」の結果
自動車検査法人の考え方として、エルボーポイントに拠らない検査方法を検討する旨、記述があります。約7年を経て検討内容がどのように進展したのか興味があります。
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