カテゴリ: ホントの話

夏季休暇 書に親しむ

「ちょっと、ちょっと先生。こんなんどうですか?」

と、店の入り口で手招きされる骨董古物商のお客様。

左手に乗る可愛らしい木箱は、以前からお願いしていた品物のようです。年代の古い高価なものでなくていいので、実用の端渓があれば紹介してくださいとお伝えしていました。


薄い紫色の「新端渓」と思われる硯は鳩梅図柄に石眼があるもので、一目で気に入りました。

たけし:「ちょっと水を付けてみていいですか?」

お客様:「どーぞ、どーぞ(笑)」

水を付けた箇所は馴染みよくパッと濃い紫になり、石の目が鮮明に現れました。

お客様:「お、色が変わりましたな。」

たけし:「ほな、これ分けていただきますわ(笑)」

僕が小学1年生から通い始めた書道教室は、父が金曜日の夕方になると楽しそうに出かけていた所でした。内緒でイイとこに行っていると勘違いして、「僕も行く!」と言ったのがきっかけ。

教室に入って、「しまった… 」と思いましたが、勢いよく言った手前、後に引けず、そのまま長年通い続けることになるのです。

東大阪の高井田といえば、当時閑静な場所ではなかったと思いますが、通っていた書道教室は、街の喧騒が全く聞こえない、日本庭園のある邸宅でした。

畳敷きに正座する、週に1度の異空間体験。遠くに鳩の声が聞こえていたのを、今でも覚えています。

父より少し年配の先生はとても優しく、筆遣いや書に気品が溢れていました。

もちろん小学生が集う時間帯がありましたが、僕は成人と同じ時間に静かに習うことを選びました。

そして、4年生になるころには「準四段」。急な事情で東大阪を去ることになって、「引っ越し先でも絶対にお習字は続けてね。」と、別れを惜しんでくださり、涙で溢れた先生の言葉を胸に刻んで、その後も大学受験で忙しくなるまで、違う教室で筆を持ち続けました。

「道」と付くものは、何でもそうかもしれませんが、僕にとって書道は生活規範。単に字を綺麗に書くというものではありません。体調・心の状態で線の出方がまるで違います。

とてもいい硯が手に入りました。当時の感覚を求めて近所の老舗、鳩居堂に用品を買い求めに急ぎます。

鳩居堂の用品は一級品です。楷書向きの馬毛も凄く滑らかでしたが、墨持ちがよく、さらに柔らかな線の描ける羊毛で、さっそくブログタイトルを書いてみました。

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