昨年末、黄色いランプが点いたまま消えないということで、お客様のご協力を得て診断を進めているスズキ スイフトのの続きです。
前回記事『未解決のPコード(スズキ スイフト DBA-ZC11S エンジン警告灯点灯 P0171 リーン異常)』
平成17年式 DBA-ZC11S M13A 4AT 走行距離 86,000km
黄色い警告灯は、エンジン制御システムの警報です。簡易診断機によると P0171:空燃比リーン異常。
この故障コードは、原因箇所を特定するものではなく、センサー(O2センサー)出力の異常を知らせています。O2センサーそのものの不具合か、他に空燃比が異常になる原因があるか、慎重に診断を進めていかないといけません。
整備要領書のロジカルで的確な診断の進め方は正攻法ですが、遠回り過ぎます。お預かりする短い時間で原因にたどり着くためには、点検個所の選択と集中が必要です。
幸いO2センサーは、プレヒーター断線のため純正新品に交換した履歴がありますので点検順位を下げます。そして、可能性が高そうなエアフロメーターは良品中古と交換してお使いいただきましたが、半年後に同じ警告(P0171:リーン異常)が出ましたので、エアフロメーター不良は除外。
次に経路ではない場所からのエアの吸い込みに焦点を当てます。パーツクリーナをエンジン各部に噴射して調子の変化を見ますがエンジン周りに異常個所は見当たりません。
並行してWeb情報を閲覧しました。近年頼りになるのが同様車種の故障事例です。同メーカー乗用車で、ブレーキ装置の気密不良がエンジン不調の原因というものがいくつかありました。
最近ではすっかり少なくなった不具合ですが、付近のイラストを取り寄せましたところ、他車種では見られない密閉方式のものとわかりました。矢印のパッキンです。
ブレーキ倍力装置(マスターバック)はエンジンの負圧を利用して、ブレーキ操作力を低減します。密閉が十分でないと空気を吸い込みます。
まずは簡易点検。ブレーキペダルを踏み込んだままエンジン停止すると、驚いたことに「シュー」という音とともにペダルがグググッ押し上げられました!明らかに気密不良で、マスターシリンダを取り外し、イラストで見たパッキンを確認します。
プライマリピストンが飛び出した構造で、このロッドがパッキン内側を摺動します。パッキン内側は劣化してボロボロ。これでは気密が確保されません。ブレーキを踏むたびに劣化したパッキンの気密性が変化しそうですから、時々エンジン警告灯が点灯するのも納得です。
電子制御されたエンジンは空燃比を補正しながら調子を保ちます。不調のあったときのデータを見ると補正率は20%を超える時がありました。
他車種で見かけるマスターシリンダとマスターバック間の紙パッキンもありませんので、内部パッキンの劣化の影響が現れやすかったのでしょう。
マスターシリンダーのインナーキットと共に供給されるパッキンで、マスターシリンダのオーバーホールも行い、無事エンジン不調が解消。
診断のために長期間経過しましたが、見込みで次々部品交換することなく、お車をお使いいただきながら無事故障原因にたどり着きました。深いご理解とご協力をいただきましたお客様と、Web上に貴重な情報をご提供下さった同業の方々にこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。
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