「こんなもんなんでしょうかね…」
と、サーフの助手席で落胆気味につぶやくオーナー様。
その運転席で僕は、固く効きにくいブレーキペダルを操作しながら、確かな異常を感じていました。オーナー様は、正規販社をはじめいろいろな整備工場にブレーキの不調をご相談されたそうですが、決定的な原因が解明されないまま長い期間が過ぎたとのこと。ここ最近は常態化を感じ、好調がどんなものだったかよくわからなくなったというご様子でした。
平成7年式 KD-KZN130W 走行距離 120,000km
各所で提案のあるままブレーキパッド点検や、ブレーキフルード交換を実施しても改善されず、しかし、一度だけ症状が改善した処置が中古品のマスターバック(真空式倍力装置)交換後だったとおっしゃいます。
店に戻って、現状を確認します。手順に従って点検しますが、マスターバックの機能は損なわれていないという結果です。バキュームポンプの吸引力も十分です。お客様から時系列で伺ったお話を整理し、点検ではわからない不調があるのかもしれないと推察し、再度中古品を取り寄せて装着することに同意いただきました。
マスターバックのプッシュロッドとマスターシリンダのクリアランスを計測し、手順書通りの値であることを確認します。
そして、マスターバック&マスターシリンダの組み付けが完了し、ブレーキ液をすべての系統に充填する作業のとき異変に気がつきました。リア系統に全くブレーキフルードが抜けないのです!
マスターシリンダからリアホイールシリンダの途中に備わるプロポーショニングバルブ(荷重応答式)が、まず目に入りました。ロードセンシングプロポーショニングバルブ(以下LSPV)と呼ばれる後軸荷重に応じてリアブレーキの油圧を制御する機構です。一目瞭然、リアアクスルから延びた棒状スプリングの末端付近がバルブピストンの先端を押す機械構造です。
不具合のあったLSPVのピストンは先端付近が内部で完全に固着していて、リア系統への油路が完全に絶たれていました。非分解の指示が修理書にありますので、状態確認のために分解。新品を取り寄せます。
僕が気がつくまでに、何度かブレーキ油圧系統の整備を行っていたはずで、どうしていままで発見できなかったのかという疑問が残りますが、LSPV交換してブレーキペダルは正常の踏み応えに戻りました。
今後は、若干リフトアップした後軸のためにLSPVの作動を補正するパーツを取り付け、LSPVを設計に近い作動をさせること。そして、LSPVに装着されたブリーダプラグから定期的にブレーキ液を排出することで再固着を防ぐことができると思います。
今回は本来不要だったマスターバックの交換を経て原因に辿り着きましたが、必要なプロセスだったとご理解くださいましたオーナー様に、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
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