アルファロメオ147です。
平成14年式 GF-937AB 2.0TS Selespeed (ツインスパークセレスピード)走行距離 41,000km
セレスピードといわれるロボット変速機。運転者の代わりにシフト操作、クラッチ操作をする半自動変速機構です。ボンネット下に収まるツインスパークという楽器のようなエンジンが、プログラムされた華麗なシフトワークで奏でる調べは乗り手を魅了します。
その反面、「セレスピードは故障をお金を出して買うようなものだ」などと酷評され、修理に40万円以上掛かったとか、部分的に修理したけど全く直らなかったとか、何かと物議を醸す仕掛けです。
さて、今回入庫しましたアルファ147、ガクガクしてスムースに発進できないときがあるとのこと。度々エンストもして、お客様は油圧低下などでクラッチの動作が不適切な状態に陥っているのではとおっしゃいます。
ガクガクしながらでも、動いてしてしまえば特に問題なく走れるので、交差点では少し手前で停車し、発進するときにはじわーっとアクセルを踏み込み、交差点内で立ち往生しないように神経を遣いながら運転されていたそうです。
まず、セレスピードコンピュータの故障履歴を見てみましょう。
油圧センサとエンジン回転センサに不調があるとの記録です。症状とは関連が薄い印象です。一旦フォルトをクリアします。
並行してWeb上でも情報を収集します。セレスピードの故障事例を検索すると、ほんとにたくさんの症例が出てきます。油圧ポンプ、セレユニット、セレコンピュータ、果てにはトランスミッションケースの亀裂まで…
しかし、今回の症状とぴったり一致する事例はなく、釈然としないまま時間だけか経過していきます。
工場の中で前進、後退を繰り返していますと、前進時にはよく症状が出るのに、後退時には全く症状が出ないことに気がつきました。また、アクセル操作の早さにも関係があるようです。
クラッチ動作に不調があれば、前進も後退も、そして走り出してからでも不自然になるはず。しかし、症状が出るのは決まって前進発進時で、特にアクセルを素早く操作したときなのです。
ふと思いついてバッテリ下に配置されるセレユニットを観察、ユニットに至る配線を各部点検していますと…
見つけました、完全に断線している箇所を!観察すると、シールド線のアースです。中心に通る2本のオレンジ色の主線は無事のようです。
156のものですが eLearn で調べます。
症状と関係ありそうな箇所です。発進時にエンジンが大きく後方に傾斜し、サーモスタットハウジングの鋭利な部分と干渉していたのが、断線の原因です。
ここからは僕の推測です。ノイズの影響を軽減するためのシールド線。主線の断線はないため、ノイズが乗らなければたとえ断線していても正常動作するのでしょう。発進時、断線したシールド線の断面に金属製のサーモスタットハウジングが干渉してノイズの影響を受け、クラッチポジションをうまく認識できずギクシャクしていたのではないかと…
さらに調べます
エンジンコンピュータには変速機からエンジンを停止する命令が下りていたような記録が残っていました。異常時に急発進を防止するためのフェイルセーフですね。セレスピードコンピュータに残されていたエンジン回転のフォルトと関係があるのかもしれません。
断線箇所を適切に処置し、再度干渉が起こらないようにタイラップで固定しました。
試運転を繰り返し、症状が発生しないことを確認し、修理完了としました。見込みで部品交換しても治らなかったと思われる難易度の高い症例です。気持ちを落ち着かせて上手く情報を整理できたのが決め手となりました。中古車価格と均衡するような高額な修理にならず本当によかったと思います。
《追記》
データモニタしていて気が付いたことがあります。Web上の情報で定期的なクラッチのリセットが必要との書き込みを見ますが、コンピュータが自動補正をしているような画面がありました。経過を観察しようと思います。(3速の変速回数が多いのと、バック変速回数が少ないのはどうしてでしょう?)
↓僕も読んでるメンテナンス本です。アルファオーナー様におすすめ。写真付でとってもわかりやすいです。