タッチアップペイントが格段に上手くなる方法(筆選びと筆運び)の続編です。
今回は、粒子顔料が入ったパールやシルバーメタリック塗装の具体的なタッチアップの方法をお伝えしようと思います。
手間(時間)を掛ければ、本当にわからなくなるほど綺麗に仕上げることが可能ですが、今回の作業は数分から10数分で目立たなくすることを目標にしています。
まずホワイトパールの補修例です。
フロントバンパーに飛び石でついてしまった小さな傷。
バンパーの素材(PP)が黒いので、塗色のホワイトパールと明確なコントラストが出てしまい、遠くからでも目立ちます。
小さな傷なので、大げさな鈑金塗装をするほどではないと、あなたは最初に市販のタッチアップペイントを購入されると思います。
カラーコードを調べて同一色を選んで、蓋に付属のブラシで塗る。
ところが、どう見ても同じ色にならないし、綺麗に仕上がらない、となるのではないでしょうか?
意外かもしれませんが、ホワイトパールの場合、市販タッチアップペイントは、そもそも筆塗りには適しません。
ホワイトパールの新車塗装は ①ベースホワイト塗装 ②パール塗装 ③クリアー塗装の3層で構成されます。3段階の工程で吹き付けますので『3コートパール』と呼ばれるのですが、3層分の塗料を混合したような市販タッチアップペイントを筆で塗ったのでは、3層構造の塗膜の表現に無理があることがお分かりいただけるかと思います。
ホワイトパールは種類にもよりますが、2層目に吹き付けるパール顔料は透明度が高い上、膜厚が薄く、ベースの白が透けて見えています。パール顔料は乾燥すると艶消しになりますので、その上に3層目のクリアー塗装して光沢を出しています。
このような工程を経たホワイトパールは、近くで見ないとソリッドの白と見分けがつきにくいものがほとんどだと思います。
そして、補修塗装用として市販される混濁パールホワイトを筆塗りした塗膜表面は、パール顔料が露出して乾燥すると艶が無くなり、さらにパール粒子の影ができるため、塗ったところが黒ずみます。
カラーコードを調べて全く同色を塗っているつもりなのに、汚れが付いたような仕上がりになってしまう理由です。
だから僕は、市販のカラーコードで選ぶタイプのタッチアップペイントは使いません。
冒頭のような小さな傷にはパール顔料を含まない『ベースの白』だけを塗ります。
独自に調色した白塗料の数々。一口に白と言っても様々です。黒、赤、黄、青など、いろいろな顔料を調合します。原色塗料は廃業された鈑金塗装工場さんから分けていただいたものを使っています。
これらの中から、遠くから眺めて一番色調の近いものを選びます。
あ、そうそう、市販のタッチアップ塗料の蓋に付属のブラシでは、どんなに頑張っても綺麗に塗れません。前回紹介した最高級の面相筆でなくても、数百円の安い面相筆でいいので是非ご用意ください。
タミヤ メイクアップ材シリーズ No.18 高級面相筆 (中) 87018
傷の部分からはみ出さないように、筆に含ませる塗料の量を調整し、穂先が震えないように利き手の手首を反対の手首に乗せて保持し、慎重に筆を挿します。厚塗りは厳禁。筆を何回も往復運動するのも厳禁。基本は一筆書きです。写真は数分の乾燥工程を取りつつ、3回塗りで仕上げました。
遠くからはわかりにくくなったと思います。
次に、別の車種のホワイトパールもタッチアップしてみました。
角に一部塗装の剥離があります。
このホワイトパールは日産ですが、ダイハツのソリッドホワイトW19が最も近い色調でした。
ボンネットにも同じような飛び石傷がありましたが、こちらはスズキのZ7Tのベースホワイトが近いです。塗膜の経年変化で黄変、褪色などがありますから、同じクルマでも塗る場所の塗色を良く観察することが大切です。
同様の要領で筆挿しします。
次に、ホワイトパールより難しいシルバーメタリックのタッチアップ塗装の方法をお伝えします。
前述の通り、シルバーメタリック顔料もパール顔料同様、粒子が大きいので、乾燥表面に露出すると艶が無くなって粒子の影ができ、筆塗りすると黒ずんで見えます。
こちらは軽い擦り傷で、塗装の剥離箇所はバンパー角部に集中しています。
シルバーメタリック顔料もいろいろな種類があります。主には粒子の色、大きさなどです。粒子の色が白く細かいほど下地を隠す力が大きい傾向にあります。
今回チョイスしたのはこの2種。比重の大きなアルミニウムのシルバーメタリック顔料が沈殿していますね。
左のほうが白く細かく、素地の黒を隠ぺいするのに用います。そして右のほうは粒子が荒いので下地を隠す力に劣りますが、仕上がりの表現を整えるために使います。
仕上がった時の明度、色調に違和感のないよう選ぶのがコツです。
シルバーメタリックのタッチアップは点描画の要領です。
筆に塗料を含ませすぎず、トントントン… とリズミカルに穂先を置きます。タッチアップ塗料をキズの部分からはみ出すことなく、メタリックの粒を均等均一に並べるイメージです。厚く塗りすぎると、シルバーメタリックの粒子が濡れた塗膜内で浮遊してムラになってしまいますので注意が必要です。
損傷個所が角ということも幸いして、遠くからは目立ちにくい仕上がりになりました。
短時間でタッチアップするコツとしては、
①凹みを完全に平滑にしようと努力しないこと(目立たず、錆止めできれば満点です)。
②タッチペンに付属の筆は使わず、安いものでも面相筆を使って極力傷の部分からはみ出さずに塗ること
③失敗したらペーパー研磨などをせず、シンナーでふき取ること(新車の塗装やプロのウレタン塗装は短時間のシンナー払拭に十分耐えます。ただし、紫外線などで劣化した塗装にシンナー塗布はNGです)。
この例以外にも様々な小キズ隠しのテクニックがあります。現車をお待ちいただく必要がありますが、個別調色にも応じます。どうぞお気軽にご相談ください。
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