ダイハツ軽自動車のタイミングベルト式3気筒の名機、EF型エンジンはほとんど姿を消しました。それもそのはず、タイミングチェーン式、軽量オールアルミニウムの次世代KF型に変わって、もう19年が経過しているのですから。
EF型より長い生産になりつつあるKFエンジンですが、市場投入初期、オイル漏れ、オイル消費といった重大な不良を多発し、一般保証以外に、延長保証(新車登録から10年、もしくは10万キロ走行いずれか早い方)が設定されるなどのメーカー対応が当時印象的でした。
その初期のKFを搭載したハイゼット軽トラックのオーナー様より、最近車の下に油滴が落ちるようになってきたようだとの相談がありました。
平成21年式 EBD-S201P ke-VE 5MT 走行距離125,000km
今まで滴下はしないものの、にじみ程度はあったのかもしれませんが、現時点では残念ながらメーカー延長保証の期間も走行距離も超えています。
多くの初期KFに見られたタイミングチェーンカバーの周りのオイル漏れが最も酷く、ヘッドガスケットにもオイル滲みの痕跡が見られました。
もちろん、シリンダヘッドガスケット同時交換が理想的ですが、酷いオイル漏れさえ治ればよいとのご要望で、今回は比較的安価に済むタイミングチェーンカバーの液状ガスケット再シールに留めました。
ただし、「留めました」いうような軽い作業ボリュームではありません。
目的のタイミングチェーンカバーは、単体離脱が不可能で、エンジンマウントブラケットを兼用したオイルパンを外す必要があるからです。
部品点数を少なくするメーカーの努力は理解できますが、2つあるエンジンマウントの片方がオイルパンに直付けされているものですから、オイルパンを剝ぐ前に別の支えを用意します(荷台のサービスハッチ上でチェーン吊り)。
こういった種類の作業は車体からエンジン離脱すると楽なのですが、工数を見ると完全に車上でやりなさいという5.5時間。
分解作業は指示通りエンジンを車両に搭載したままで進めます。
目的の部品離脱が完了すると、エンジン内部が露わになりました。
サービスマニュアルの液状ガスケットの塗布量を確認しますと、タイミングチェーンカバーの方がオイルパンより多く指示されていました。
一方、このエンジンに元々塗布されていたガスケットの「はみ出し」量を見る限り、タイミングチェーンカバー側が少なく見えます。
さて、ここまでの作業は淡々と分解するだけなのですが、この次のプロセスの前に強固に塗られた液状ガスケットの清掃という最難関があります。
取り外した単体のオイルパンやタイミングチェーンカバーはもちろん楽な場所で作業できるのですが、エンジン側の取り付け面清掃は、上方を向いたままでひたすら剥離。
ガスケット剥離に1時間以上は軽く掛かりますし、新たな液状ガスケットの硬化時間は最低でも3時間は必要(実際は一晩放置)。作業工数とはどんな基準で決められるのか不可解です。
こちらは愛用の液状ガスケット、RTVシリコーンシール剤です。
|
↓アマゾンでも販売
https://amzn.to/3YQxQLd
RTVはRoom Tenperature Vulcanizing(室温硬化型)という意味です。今回の用途(アルミニウムの接合面)には、このような脱オキシムタイプがよいでしょう。
非常によく似ている「脱アセトンタイプ」というシリコーンシール剤もあり、どちらも空気中の水分と反応することは同じなのですが、脱アセトンタイプは、硬化の過程で酢酸を放出し、金属腐食の懸念があるため避けたほうが無難です。酢っぱい臭気がするので区別は容易かと思います。
組み立て後の写真です。接合面から適度にはみ出た灰色の液状ガスケットが確認できると思います。工場の生産ラインでは機械が自動塗布するのでしょうが、整備は手作業。マニュアルに記載された量を手際よく塗布し、塗布後、決められた時間内に接着しないといけません。
不均一な塗布だとはみ出しにバラツキが出ますので、修理屋のクオリティが丸わかりになってしまう典型的な作業ですね。
しばらくアイドリングや試運転をして、にじみがないことを確認して作業を終了しました。
(動画がうまく再生できない場合はこちらから)
プレミオおじさん says
お久しぶりです。
当方もこの液体ガスケットの塗り直し作業、29万km走行のコンテのKF-DETエンジンでやりました。
昔のホンダの二輪のように、接合部の平滑度を上げて紙のような薄いガスケットで接合していればオイル漏れしにくいのかもしれませんが、精密研磨の工数を省くためなのか、平滑度はまずまずで液体ガスケットでごまかしている感じです。
まだ当方のみんカラでアップしてませんが、結局30万km弱で新品部品で組み立てて交換したエンジン(クランクシャフトのみ再利用したが後に後悔)ですが、KF-DETの新品のシリンダーヘッド、シリンダーとの接合面なんて手で触ってもわずかに段差が感じられるほどの段差があって非常に驚きましたよ。これでは部品の品質はいいとはお世辞にも言えず、当然砥石で平滑にしてからシリンダーに装着しました。
で、問題の液体ガスケットですが、元ダイハツディーラーで整備士をされておられた方のアドバイスを頂き、修理書では1280Eを使えと指示でしたが、当方ではスリーボンドの1207Fで対処しました。ウォータポンプ周囲の封には修理書のとおり真っ黒の1282Bです。
もちろん液体ガスケットが適切にはみ出すように極力均一に塗布しました。はみ出したガスケットが壁を作って封をするのを凝縮破壊というのも教えてもらいました。本来の液体ガスケットとは違いますが、4年以上経た現在でも問題はないようです。
ITS says
プレミオおじさん様
早速のコメントありがとうございます。
こちらこそ大変ご無沙汰しております。
久しぶりに貴殿の整備記録を拝見しました。
エンジンを一から組み立てて始動した時の喜びは作業したものにしか味わえない喜びだと思います。工具類は良いものお使いですが、リフト無しの環境では大変ですね。固着した何かを取り外すのもアセチレンや溶接機など大型の設備があると楽な場合が多いですが、ご苦労お察しいたします。
当方も限られた時間で色々な作業をスケジュールする関係で、2営業日を必要とするこの記事の作業のためにメインの二柱リフトを占有できず、下からの作業が大変困難でしたが旧式の一柱リフトで行いました。ご存知と思いますが当方の設備もそう整ったものでは無く、やはりそれなりに工夫が必要です。
さて、液状ガスケットなつきましては、サービスマニュアル上で2種(エンジンオイルとクーラント)使い分けが指示されているのは承知していましたが、長年問題なく使っているロックタタイトの5699のみで施工しました。
ウォーターポンプ付近に指定されていた1282Bに類する液ガスは外国車のウォーターポンプ接合にも使われていますね。この種の液ガスは粘り強くて剥離作業が大変ですから、次のことも視野にここにも5699を使います。
貴殿がお使いになられた1207Fについて調べておりませんが、記事にも触れた脱オキシムタイプであれば問題ないかと思います。