約2ヶ月前、乗り心地改善と各部整備のご相談がありましたトヨタ ラウムのお客様。綿密な打ち合わせと準備が整い、片道100km以上の遠方よりお越しくださいました。
平成17年式 CBA-NCZ20 1NZ-FE 4AT 走行距離 92,000km
以前より僕の記事をご覧いただき、同車種で行っているショックアブソーバ交換の作業をメインに、1年ほど前から発生している走行中(特に長く続くカーブで)の異音のご相談がありました。
現在までの点検整備は、お客様のお住まい近くの正規販社で。そして、足回りやタイヤの整備は、ホイールアライメント専門機器を備えるお店などでされていたようですが、抜本的な解決に至らなかったようです。数ヵ月後に継続検査を控え、今回のお預かりで必要な整備も同時に承りました。
まずは現状把握のために店を出ます。驚いたのは右前輪からの異音でした。ほんの10メートルほどの走行でベアリングの状態が正常ではないことがわかりました。ゴロゴロというベアリングボールの痛んだ音に加え、キリキリと金属同士が干渉する音が周期的に聞こえます。
今年始めの点検記録には、この症状のことが整備士の手により書かれていましたが、タイヤローテーションのみで特に処置されていないようでした。点検の結果、『特に異常なし』を告げられたお客様は、こんなにひどい異音でも異常がないなら仕方ないと納得せざるを得なかったでしょう。
念のためサウンドスコープで聴診します。
このようにタイヤを回転させながらハブナックルにスコープの先端を宛がうと、原因箇所の特定ができます。
ハブナックルを取り外します。
そして、約1年も痛んだ状態で走行されていたようでしたから、安心のためにハブも新品にします。油圧プレスを使用して慎重にハブナックルを組み立てます。
さて、乗り心地改善に関しましては、お客様と相談の結果、KYB NewSR スペシャルをチョイス。付随するゴムパーツも新調します。
アッパーマウントは長期間の装着で、前後とも変形を伴っていました。ショックアブソーバロッドの作動とマウントラバーの変形で乗り心地やサスペンション動作が影響を受けますから、適正なものを組み込むのが基本と思います。
↓ブッシュの厚さが違うリアアッパーマウント(左:旧装着品、右:新品)
↓アッパーマウントの皿の位置がゴムの変形で上方に上がったままになっている旧装着品(右側)
元装着されていたショックアブソーバは、特に右フロントと左リアに痛みがみられ、左リアのショックアブソーバはロッドを縮めると、封入ガスが抜け切っているようでほとんど反発力がありませんでした。ボンネットやリアゲートに装着されているショックアブソーバのように、封入ガスの反発力は重い車体を支える重要な機能を担います。
↓油漏れがあった右フロントショックアブソーバ
サスペンションは、凹凸のある路面で車体の動揺を抑えるためと思われがちですが、タイヤを路面に効率よく適切に接地させることが本当の目的だと考えています。凹凸路面にすばやく追従して過度にタイヤに負担が掛からず、地面を捉えること。そしてカーブなどでは、外輪ばかりに極端に負担が掛からず、内輪にも適切な接地が得られること。
それらは、サスペンションが適切なストロークで、適切な動作をして得られるものです。車高をむやみに下げてストロークを小さくしたり、ハードなスプリングやスタビライザでサスペンションを動きにくくするのが間違った方法だということは明白です。
そして、路面との唯一の接点であるタイヤも、ノーマルで指定されているタイヤと外径を揃えればいいというものではなく、特に扁平で幅広なタイヤは、路面の状態に過敏で、しかも適切な接地が得られない場合が多く、サスペンションが良くても運転が疲れたり、乗り心地が悪い原因になります。
タイヤやシートも含めたサスペンションが適切だと乗り心地も自ずと良くなります。乗り心地改善のためとショックアブソーバ交換をしますが、本当は、適切なサスペンションに整備して路面に追従するタイヤ接地を得るためのものなのです。
今回整備したラウム、お越しいただいたときの乗り心地と、お渡し後の乗り心地は激変しているものと思います。お好みの状態になっていれば幸いですが、ベアリング交換で不快なノイズが低減し、不適切な状態で偏磨耗したタイヤのノイズが少し気になります。
タイヤ交換時期も近いようですから、是非良いものを履いてラウム本来の性能を引き出してみてください。今回は、本当に遠路遥々ご来店いただきありがとうございました。その後のご感想など心よりお待ちしております。