アルファロメオに搭載されるセレスピードと称する変速機は、クラッチペダルのない2ペダル式セミオートマチックです。変速機本体は手動変速機と全く変わりがなく、ギアシフトやクラッチの断続を油圧式ロボットが人間の代わりに操作するものです。手動変速機が8割以上を占める欧州の自動車事情だからこそ誕生した特異な半自動機構なのでしょう。
さて、今回入庫したのはアルファ156 2.0TS selespeed。
平成13年式 GF-932A2 2.0TS selespeed 走行距離 89,000km
アップシフト完了時にクラッチの接続が遅れているようで、僅かな「滑り」が生じていました。セレスピードのコントロールユニットは、アップシフト開始直前に、運転者がアクセルを踏み込んでいてもスロットルバルブを閉じてエンジン回転が低下するのですが、運転者がアクセルを緩める操作に対してはコントロールユニットは従順です。
機械を労わるように、シフトチェンジの度にアクセルを緩める習慣が運転者にあれば、症状の「滑り」は、わからない程度のわずかなものです。完全にクラッチがつながってしまえば、高回転でも滑ることはありませんし、ゼロ発進も円滑です。
Multiecuscanのメニューを見ます。
Adjustments の Clutch self-calibration enable は、備考に、クラッチ本体やセレスピードアクチュエータ、及びコントロールユニット交換時、または、クラッチの断続不均一時に実行するとあります。
ところが、この「滑り」の生じた156には、この Multiecuscan による調整は全く無効でした。海外の車種別フォーラムをサーチすると、興味深い書き込みがありました。
Multiecuscan の Parameters の Clutch pressure plate travel が 28.000mm ~ 28.500mm の範囲にあるのが望ましい旨の記述です。お預かりした156の当該パラメータは 30.366mm と基準の2mm程度超過していました。
インテークダクトその他を取り除き、レリーズレバーを操作するクラッチアクチュエータのダストブーツの中には調整ネジのあるプッシュロッドがありました。
2.0TSに組み合わさるクラッチはプッシュ式です。クラッチディスクが磨耗していくとレリーズレバーとアクチュエータプッシュロッドとの間隔は無負荷の時少なくなりますので、それを補正する方向にロッドの長さを2mm程度調整しました。この調整、非常にシビアで、ロックナットの締め込みで変化があったり、試走後の測定でも変化がありました。何度か調整、試走を繰り返し、28.350mmの表示値に落ち着きます。
この機械的な調整の結果、極めて円滑なアップシフトがアクセル操作を一切緩めることなく実現し、セレスピード本来のシフトワークがよみがえりました。もちろんダウンシフト時のブリッピングも回転合致が心地よく決まります。
クラッチ本体の交換前に実施する価値のある調整だと思います。
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