スズキ ワゴンRターボです。昨年比較的暖かい時期に中古車で購入し、寒くなってきてヒーターの効きが悪いことに気がついた。ということでご来店いただきました。
平成12年式 GF-MC11S F6Aターボ AT 走行距離147,000km
サブタンク内壁やラジエータキャップを外した部分から覗き込む風景は、クーラント(ラジエータ液)の交換を随分怠っていたものでした。F6Aは鋳鉄シリンダブロックのため、赤錆が発生しやすいのですが、加えてターボ付でもあるためラジエータ液の劣化に拍車が掛かっていたのでしょう。
注入されていたラジエータ液は色で判断する限り悪いものではありませんでしたので、おそらく中古車でご購入される直前に交換されたものと思います。
以上から、ヒーターが効かない原因として最も可能性の高いのはヒーターコアの詰まりです。しかし、ヒーターコアの交換は、ダッシュボード脱着を伴う作業で、費用も相応に必要です。
お客様は、ダメ元でいいからヒーターホースを離脱して水道水で洗浄する方法を試して欲しいと申し出されました。
僕は、水圧を加えて汚れを除去する際に、腐りつつあるヒーターコアにピンホールが開いてしまう可能性があることをお伝えし、そのリスクを包含した上でトライしてみることにしました。
圧縮エアと水道水で双方向から洗浄、若干の錆は出てきましたが、詰まりが取れたような手応えはなく、水も空気も通過しているものの、デフォルトがわからないので良否の判断が難しく、とにかく元通り組み付け試運転。
やはり状況に変化は無く、特にエアコンをつけると冷たい風が出てくる始末で、お客さんと共に車内で消沈してしまいました。やはりコア交換しかないのか… それともコアに至るまでの配管にも問題があるのか…
僕は、つい難しく考えてしまいます。するとお客様から
「ヒーターホースを逆に接続するというのはどうでしょう。」
と、僕が考えも及ばなかったアイデアが!!
確かに詰まりを取り去る方向に、水圧の加わったラジエータ液が流れれば、コア内部の状態が変化するかもしれません!
決して無理なホースレイアウトではありませんので、再度ラジエータ液を排出して、ホースを逆接続。
そして、ラジエータ液を再注入してエア抜きをしていると…
「なんだかさっきより暖かいみたいですよ!」
とお客様。エア抜き完了してリフトから下ろして再度試運転に出かけます。すると見る見るエアコン吹き出し口の温度が上がっていきます。詰まりがすーっと取れるように、数分で暑いぐらいの車内になり、歓喜につつまれたのは言うまでもありません。
しばらく詰まりを取るイメージで、逆接続のまま走行いただくということで、修理完了としました。
寒い工場であーでもないこーでもないと、長時間作業にお付き合いいただいたのがとても嬉しく、その上、修理のアイデアまで頂戴して感謝しきりです。斬新なアイデアがなければ、通り一遍の修理になってしまうところでした。これに懲りず、またのご来店心よりお待ちしております。
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S・T says
今回お世話になりましたS・Tです。
仰られていた様にコア交換の費用も高価ですし、別の原因があったら・・・と思うと二の足を踏んでいました。
ダメ元トライのつもりでしたが、結果オーライで非常にラッキーでした。
プロの立場と専門用語を駆使して客をケムに巻く車屋が多い中、素人のアホな質問にも丁寧に答えて頂ける姿勢にとても信頼の置けるメカニックさんであると感じました。
だからこそ「アホな提案」と口を噤んでしまうことなく思い付きを口にできたのだとも感じます。
高年式・過走行の車です。他の手当ても必要でありますので、経過観察と共にお世話になりたいと思います。
ありがとうございました。また今後も宜しくお願いします。
たけし says
S・Tさん、コメントありがとうございます。
昨日は冷蔵庫のような気温の工場で長時間お付き合いいただき大変お疲れ様でした。
僕は慣れていますが、体調を崩されていませんか?
S・Tさんのアイデアがなければこれだけ短時間に解決できなかった故障で、本当に感謝しています、とても興味深い作業内容で今後につながるよい経験をしたと感じています。
季節の影響をもろに受ける工場内ですが(冬は氷点下~夏は40℃を軽く越えます)僕は、今回のようにお客様と故障の原因探求の過程や、その一連の作業を感覚的に共有したいと常々思っていました。
それが一番納得いただける方法だと思うからです。
この度はご来店誠にありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております。
S・T says
>>高年式・過走行の車です
おっとw
低年式・過走行の間違いですね。こんな部分にもド素人っだという表れが^^;
>お客様と故障の原因探求の過程や、その一連の作業を感覚的に共有したいと常々思っていました
作業を見えられる(周囲をうろつく)のを嫌がるメカさんの多い中、真逆な意見に驚いております。モノによっては安くない費用を払う客の立場からすれば、全て見せて頂けるメカさん程信用できる相手はいないのではないでしょうか。そういった意味でも良い店を見つけたと喜んでおります。
>僕は慣れていますが、体調を崩されていませんか
全く無問題であります^^
車の状況だけでなく体調まで気を配って頂きありがとうございます。
カクシカおじさん says
しかしすごい発想が思い浮かぶものですね。私など読んでいて本当にビックリですよ。
人間って、もう必死になれば「一念岩をも通す」のことわざではございませんが、専門家でもとても考えられないような知恵が沸くものだと改めて考えさせられました。
この話をみて思い出しましたが、
以前、20年の歳月で固着していた当方の軽二輪のCD250Uのフロントフォークのオイルシール、
きれいに洗浄し乾燥させたボトムとオイルシールの新品部品を持っていった先のバイク屋も、固着したシールが外せなくてお手上げ状態で、洗浄済みのボトムを仕方なく自宅へ持ち帰って、それを見ながらしばし途方にくれていましたが、
ふと、いつも当バイクのタイヤ交換に使っている(四輪は車屋さん任せです)、先端が少し湾曲しているKTCのタイヤレバーを使えば、というひらめきらしきものが脳裏に浮かび、
ボトム内側の壁面を傷めないよう場所を少しずつずらしながら慎重に作業したところ、オイルシールが少しずつ外れてきて、2本とも何とか無事に取り外すことができました。
で、以前は見ても分からない程度の量のクッションオイルが、フォーク壁面にほんのわずかにひっついて外へ出ていましたが、
現在は新品状態のオイルシールとダストシールのおかげで、恐らく左右の油面高さに違いが出ることもなくなったようで、ずっと快適な乗り心地になっています。
ただ残念ながら、仕事の過労とあまりの寒さと、いつ降り出すか分からない冬場の雪のため、当面バイクに乗る機会がまずないこの頃です。
S・T says
>しかしすごい発想が思い浮かぶものですね
いえw
ピンポイントでの発言ではなく、ド素人の「思いつき」を次々と発した中の一つがHITしたのです。アホな思いつきを面倒臭がらずバカにした態度も見せず、丁寧に答えて頂いたからこその結果かと。
「ヒーターコア自体にIN/OUTの極性はない」とのたけしさんのつぶやきに反応したのが発端です^^;どちらにしても、そういった姿勢がこの幸運を引き寄せてくれたのだと感謝しております^^
単車。。。
いいですなぁ。。。
私も単車を欲しいと思っておりますが(免許は所有)、頭金ができた頃に必ず車の修理が・・・w
たけし says
カクシカおじさん様
今回の修理はお客様の熱意に助けられました。
このようにお客様との対話で一緒に取り組む仕事ができたことをとてもうれしく思っています。
ところで、バイク、いいですねぇ。
僕は原付免許なので、バイクとてもうらやましく思います。
単車はモノにもよると思いますが、四輪とちがって、大掛かりな設備がなくても手が入る部分が多くて楽しめそうですよね。
たけし says
S・T さん
故障の原因を探り、その対策を練るのに、面倒なはずありません。
不具合解消に向けて、知恵を絞って、お客様と共に歩むプロセスは楽しいものです。
お客様に見られて嫌がるメカニックは見られては困る仕事をしているのでしょうか?
今回は、3時間ほどでしたが、とても充実した時間を過ごせました。
かま says
車の空調開発に携わる者です。
ヒータコアのチューブが全部詰まるほど何がLLCに混ざっていたのか気になります。
ヒータコアの詰まりはあまり聞かないトラブルです。
成分によってはヒータコアの腐食が進んでいる可能性もありますので、経過観察をおすすめします。
たけし says
かまさん
コメントありがとうございます。
こちらのお車は入庫時、ほんのりヒーターが効いていましたので何本かあるうちの一部のチューブが詰まっていたと考えています。
また、当方、ヒーターコアの詰まりは鋳鉄シリンダブロックのエンジンでLLC管理の極端に悪い車に割とよくあるトラブルと認識しています。
ただし、LLCを適正に交換している車両には全くといっていいほど聞かないトラブルです。
ヒーターコアが詰まる車は、決まってサブタンクの底に粘土状の堆積物が見られます。
成分をきちっと分析していませんが、いわゆる赤錆の色です。
おっしゃるとおりヒーターコアの腐食も懸念されますのでお客様には室内のリークの点検を依頼しています。
アドバイスありがとうございました。
S・T says
開発されている方が・・・すげー@@!
mc11sに限らずコア詰まりと水道フラッシングはDIYユーザーには定番みたいです。ググったらたくさんHITしますから^^;
本文にも書かれておられる通り、圧縮エアーと水道水は両サイドから抵抗無く通りましたので、何本か(1・2本?)が生きていたのでしょうね・・・
また水路全体が詰まっていたのではなく、入り口?に蓋の状態だったのかな。。。とも想像しております。症状が酷かったなら、コアがパンクしているでしょうね(怖っ)。
パイプ逆接続の為に、一旦入れただけで抜いたLLCにもサビらしき色と粉状の物体を目視できました。
現状水路を循環してるであろう(きっと)サビ粉も、何度かのなるべく早目のサイクルでのLLC交換でなんとか・・・とも考えております。
浮遊サビ粉が新たな腐食の呼び水にならぬよう、ポンプ詰まりの要因にならぬよう、と。気休めかもですが^^;
昨日・本日の2日間で1000kmオーバーの走行してきました。今の所LLC漏れは無さそうです。言われていた若干のエア噛み残りであろうサブタンクの減りも、予想して頂いた通り数センチ。水足しておきました。
それよりも別件で言われていたショックのヘタリを怖いくらい体感してきましたw言われた時は全く判りませんでしたがwww
普段使いなら全く気にならないであろう部分も使用環境が変わると実感するもんですね^^;いや、マジでビビった瞬間が(何度も)ありました~(=^‥^A
通りすがり says
MC11のF6A、特にターボですとヘッドガスケットが飛ぶんで冷却系に混じってしまう事例、本当に多いです(全負荷走行でもしない限り不具合が出ない状態)
比較的大きな破片にサビや水道水使用による炭酸化物(カルシウム、マグネシウム)が絡みつくようにしてチューブ等細い部分に詰まっている場合が殆どですね
これらは殆ど水に溶けませんのでどんどんと堆積します…
溶かすには強酸が一番なのですがヒーターコア内部へのダメージも考えて、弱酸である酢を思い切って入れてやると中々いい具合に溶け出してきます(浸け置き状態は厳禁)
あきちゃん says
ヒータの効きが悪い、で辿りつきました。
当方はトッポBJです。いろいろ試したのですが、残された選択は
コア交換でしたが、試しに同じことをやったら、熱風が出てくれて
感激しました^^ここに辿りつけたことを感謝します。
たけし says
あきちゃんさん、こちらのアイデアは、お客様の熱心な気持ちがあってこそのものでした。僕ならコア交換していたと思います。記事がお役に立てたようで光栄に思います。
S・T says
お久しぶりです。S・Tです。
偶然見つけた記事です。
逆接続が「裏ワザ」として広まりつつあるようですw
安価で利便なワザとして認識されたら嬉しいですね^^
http://blog.livedoor.jp/reflection1/archives/3017283
あきちゃんさんの事例も嬉しいですね^^¥
たけし says
S・Tさん、大変ご無沙汰しております。
リンクのWebサイト拝見しました。
ヒーターコア交換となると作業も大変で費用もかかります。今回の改善事例はS・Tさんのヒラメキがあってこそでした。うれしいお知らせありがとうございました。