エアコンが全く効かないということでお預かりした日産クリッパーバンは、エアコンスイッチを入れても送風の状態でした。
自動車エアコンの冷房サイクル(蒸気圧縮式)は、閉じた経路内の冷媒が以下の循環をすることで継続的な冷房が実現されます。
圧縮:コンプレッサーが気体冷媒を高温高圧に圧縮
凝縮:コンデンサー(エンジンルームの室外機+クーリングファン)で高温気体が放熱して液体に変化
膨張:エキスパンションバルブ(膨張弁)で高圧液体が急激に減圧され、低温低圧の液体(霧)になりエバポレータへ導入
蒸発:エバポレーター(空調ダクト内部に設置された室内機)で液体冷媒が蒸発し、周囲から熱を奪って冷却→気化した冷媒はコンプレッサーへ戻る。冷えたエバポレータ外側に送風を当てることで冷気を作ります。
時々誤解があるのですが、ゲージマニホールド(冷媒回路の高圧、低圧を計測する機器)は圧力計なので、冷媒充填量はわかりません。冷媒が完全に(またはほとんど)漏出してしまっている場合は判別できますが、エアコン停止時は冷媒回路内部では液体と気体が混在して圧力は一定になるからです。
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冷媒回路途中のエキスパンションバルブをスプレーノズルのようなものと考え、順次液体が補充される缶スプレーをイメージすれば冷房サイクルが理解しやすいかもしれません。
適量の液体と内圧がある缶スプレーは安定して噴射でき、その連続したスプレーは缶がキンキンに冷たくなりますよね。
限られた内容積の回路内に過剰に冷媒が充填されるのが不適切なのはイメージしやすいと思います。そして、多少冷媒が少なくても冷房能力に大きな影響を与えないこともお分かりいただけるのではないでしょうか。ですから漏れなどで冷媒不足に陥ったエアコンが効かないときは、冷媒が相当少ないと考えて差し支えないと思います。
さて、クリッパーの診断に戻ります。
平成23年式 GBD-U71V 3G83 4AT 走行距離 146,000km
エアコンが全く稼働しないということですから、まずは冷媒点検です。ゲージマニホールドを接続しようとして異変に気付きます。高圧側の異常高圧により、チャックが固く取り付けができない状態でした。
一方、低圧側は取り付けられ、0.8MPaと高いのですが、高圧側はプレッシャースイッチ作動圧(多分2.0Mpa以上)を軽く超えているようです。とりあえず低圧側から冷媒を徐々に抜き取り、高圧側のチャックを取り付けました。
ここで今一度エアコンを掛けてみると、プレッシャリミット圧以下になったのかコンプレッサは通常通りONになり、コンデンサクーリングファンも回ります。しかしコンプレッサーから若干うなりが聞こえ、高圧は1.7MPaと高く、低圧は低すぎる印象です。ちなみにこの時の気温は25℃でした。
このような異常な圧力指示になるのは、どこかに冷媒の流れが滞る箇所がありそうです。その箇所はエキスパンションバルブ的動作をしますので、異常箇所前後の配管に温度差が発生します。今回はエキスパンションバルブ上流にそのような温度差がみられませんでしたので、エキスパンションバルブそのものの不調(詰まり気味)の可能性が高いと考え、交換を実施しました。
助手席足元のエアコン配管の奥にエキスパンションバルブが備わります。
取り外したエキスパンションバルブは外観でわかる不具合はありません。
こちらのクリッパーのエアコン装置は整備性が抜群で、エバポレータが簡単に取り外せる構造になっています。通常の軽自動車は次の記事にあるように、エバポレータ交換は比較的大変な作業だからです。
《参考記事》炎暑下のエアコン修理 ~パレットMK21Sのエバポレータ交換と、昭和が遺したガスチャージャの記憶~
エアコンフィルタの無い構造のため、このようにエバポレータ表面には堆積した埃が付着していました。
これを清掃するだけでも随分冷房能力が回復します。
そして元通り組付け、
ゲージの圧力は理想的なバランスになりました。
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